機械学習の技術によって音声認識の精度が驚くほど上がった。自然言語処理の発達も重なり、業務で使えるレベルに達しつつある。自動通訳端末やAIスピーカーなどの市販品を活用する企業も増えている。

[東日本旅客鉄道]
「翻訳コンニャク」車内に 訪日客に対応、駅でも威力

 かつては夢の道具だった自動通訳端末。ドラえもんのひみつ道具「翻訳コンニャク」のような仕組みがAIの発達により100年早く実現しつつある。

 これに目を付けたのが東日本旅客鉄道(JR東日本)だ。急増する訪日外国人への対応策として、2018年3月1日から約2カ月間、ソースネクストが販売する「ポケトーク」端末45台を一部の駅や車内で試行導入した。

図 自動通訳端末「ポケトーク」(左)を導入した特急「成田エクスプレス」
JR東日本は車内や駅に自動通訳端末を導入(写真提供:ソースネクスト(左)、東日本旅客鉄道)
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 ポケトークは日本語や英語、中国語など63言語に対応。端末のボタンで言語ペアを指定する。例えば日本語と英語を指定した場合は、日本語を音声認識してテキスト変換したうえで英文に翻訳。それを音声合成で発音する。その逆も可能で、日本語を話す人と英語を話す人が会話できる。法人向け価格は1台5万円(税別)からだ。

 端末は携帯電話回線を通じインターネットに常時つながる。音声認識や翻訳はクラウド上で処理する。米グーグルなどが提供するAIエンジンを活用する。言語ペアごとに翻訳精度が高いエンジンを自動選択する仕組みだ。

Suicaを果物と誤訳も

 JR東日本は外国人利用の多い駅や、特急「成田エクスプレス」の一部車内で運用した。効果を発揮したのが新宿駅の「お忘れ物承り所」だ。

 「忘れ物の捜索や引き渡しには、一方的な情報提供ではなく双方向の会話が必要。日本語が話せない客への対応に時間がかかるのが課題だった」(広報部)。忘れ物をした状況や物品の特徴についての意思疎通が不可欠だからだ。電話通訳サービスなども併用しているが、ポケトークなら電話をつなげなくてもすぐに会話を始められる。状況を詳しく聞けるようになり、早期発見につながったという。

 課題も明らかになった。例えば「(ICカードの)Suicaを落とした」という発言が「(果物の)スイカを落とした」と誤訳される例が頻発した。日本語に多い同音異義語やSuicaのような用語の訳には課題があるという。駅員はこの特徴を理解して「ICカードのことですか」など言い換えて、誤訳を防ぐなどした。ポケトークは基本的には一般旅行者向けの製品で、法人向けのカスタマイズは今後の課題だ。

[ロイヤルダイニング]
店員はスピーカー 労力半減、4割増収

 「アレクサ、飲み物メニューを開いて」。飲食店チェーンのロイヤルダイニングが運営する居酒屋「天空の月 渋谷店」では、客席からこんな声が聞こえてくる。2018年3月19日に「アレクサオーダー席」を1席設置し、運用している。店員を呼ばなくても音声だけで飲み物を注文できる。

 アレクサは米アマゾン・ドット・コムが販売するAIスピーカー「Amazon Echo」シリーズに内蔵したAIアシスタントだ。「アレクサ」と呼び掛け、続いて用件を話すと反応が返ってくる。

 アレクサで動作するアプリを「スキル」と呼ぶ。ロイヤルダイニングはAI分野のアプリ開発を得意とするヘッドウォータースにスキル開発を依頼した。あえて一般的なタブレット注文機ではない音声注文の仕組みを使い、物珍しさを訴求する狙いもある。

 同店の園田裕也副店長は「アレクサで注文取りの労力が省ける分、他の仕事に手が回る。お客様にも楽しんでいただいている」と語る。店員が注文取りのために席まで行かなくて済むため、1注文当たりの労力は5割減る。物珍しさも手伝って、該当席の売上高は通常席より約4割多いという。

図 居酒屋「天空の月 渋谷店」で飲み物を注文する様子
AIスピーカーで注文を取る
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 一方で、発展途上の面もある。AIの音声認識精度の問題から注文対象は飲み物に限定される。「コークハイボール1杯」のように注文できれば理想的だが、現時点では「ハイボールの2番を1杯」のように、メニューを見て、飲料の種類と番号を言わなければならない。「通常のハイボールとコークハイボールなどは店員でも聞き取りづらい。検証を繰り返した結果、全メニューを聞き取らせるのは難しいと判断し、今の方式に落ち着いた」(企画を担当したヘッドウォータースの椋代宏平氏)。とはいえ、AIが進化すれば「とりあえず生3つ、それと枝豆。やっぱり1つはハイボールに」といった注文がこなせる日が来るかもしれない。

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