画像認識の技術は工場の生産改革に役立つ。キユーピーはジャガイモの良品を自動選別する仕組みを構築。検品の効率を2倍に高めるメドをつけた。

 キユーピー鳥栖工場。作業員の目の前に広がる何百個という「ダイスポテト」を作業員が選別していく。ダイスポテトはじゃがいもの皮をむいて1センチ角の大きさに切ったものだ。ダイスポテトに付いたミリ単位の黒い斑点まで見抜く熟練の作業。鳥栖工場で日常的に見られるこの風景が、2018年中にがらりと変わりそうだ。

 主役はキユーピーのベビーフードだ。国内9工場のうち、ベビーフードの製造の多くを鳥栖工場が担う。同社はマヨネーズのイメージが強いが、ジャムやパスタソースなどの加工食品も手がけている。2017年度の加工食品の売上高は約466億円。加工食品の1つがベビーフードだ。離乳食を始める5カ月ごろから1歳まで月齢に合わせた加工食品を提供しており、その中にダイスポテトが含まれている。

図 ベビーフードの製造拠点である鳥栖工場
AIを導入して検品効率を向上(写真提供:キユーピー)
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ポテトの選別にAI導入を検討

 同社はベビーフードに使うダイスポテトの選別に、2017年からAI(人工知能)を試行してきた。「特に赤ちゃんが食べるベビーフードは何より安全が大切。熟練の作業員が目を皿のようにして不良品を省いてきた」(生産本部の荻野武 生産技術部次世代技術担当次長)。ダイスポテトには、小さな黒い斑点がついたような品質不良や形が整っていないカット不良がある。季節や土壌といった要素が影響するため、「何パーセントの割合で不良品が出るといった平均値は出せない」(荻野氏)。いつ出るとも分からない不良品を作業員が目を凝らして見つけていた。

 この作業をAIで代替できないかと考えた。荻野氏は2016年に大手電機メーカーからキユーピーに転職。経営幹部から「AIで何かできないか」と相談を受けた。電機メーカー時代からAIの動向を注視していたこともあり、ある程度の土地勘があったためすぐに検討に取りかかった。

 例えばエネルギーコストの削減や設備の故障予兆診断といったアイデアが浮かんだ。最終的に原料検査にAIを応用しようと決断したのは、「AIが得意とする画像認識の技術を最大限に発揮できることが大きかった」(荻野氏)。

 数十社の技術を検討し、最終的に米グーグルの深層学習の基盤ソフト「TensorFlow(テンソルフロー)」で検討を開始した。決め手は実績と将来性およびオープン性だという。グーグルの画像認識技術は全般的に実用に耐えうるようになってきており、オープンソースであるため今後の進化が見込めると評価した。2016年当時、画像認識で頭角を現し始めていたグーグルと導入支援事業のブレインパッドの3社で開発を始めた。

不良品ではなく良品を見つける

 2016年夏に依頼を受けたブレインパッドは「参考にできるほどの事例がない中で手探りで始めた」(ブレインパッドの吉井俊介アカウントマネージャー)と当時を振り返る。ブレインパッドが当初持ち込んだ提案は不良品と良品それぞれから教師データを作る方法。荻野氏はこれに首を縦に振らなかった。「良品だけを読み込む方法でやりましょう」。荻野氏はブレインパッドにこう打診した。

 荻野氏の提案には理由があった。不良品のデータが少ないことだ。データ量が出力結果に影響するAIにおいて、それは致命的ともいえた。さらに、それまで人間が長年の知見で判断していた「不良」の定義も難しい。良品か不良品かの境界線は、人によって判断がぶれるほど曖昧だからだ。良品データを読み込み、そのデータから外れるものを不良品と見なす方法にしてはどうか。今まで人間の目で不良品を見つけていたところ、逆転の発想で良品を見つける仕組みに切り替えたのだ。

図 従来とAI導入時のダイスポテト判別の違い
人の目は不良品、AIは良品を判断(写真提供:キユーピー)
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 学習モデルを作るために読み込んだ良品データはダイスポテトの数にして約100万個。画像件数は約1万枚に及んだ。2016年10月末には試験運用できる見込みが立った。12月には荻野氏がシステム案を手書きで作り上げ、2カ月後にプロトタイプを作成。2017年2月に鳥栖工場にプロトタイプを設置した。この1号機は不良品を見つけた際にブザーを鳴らす方式だった。カメラが捉えた画像のどの位置に不良品があるかを画像の座標軸から判定。作業員がそれを見て不良品を手作業で除去する仕組みだった。

 AIが判定する不良品は、1号機から既に「実用レベルに近かった」(荻野氏)。当初、判断が難しいダイスポテトは良品としていたが、チューニングを繰り返し「人が良品とするダイスポテトはAIが判断しても良品と判断するレベルになった」(荻野氏)。

 アルゴリズムの調整をするために排除されたポテトは、作業員全員で確認。これらは、人によって「良品」か「不良品」か判断が分かれるダイスポテトが大半だった。判断レベルが人間に近づいた証左でもあった。

図 AIによる不良品除去システムの導入経緯
1号機は不良品を音で知らせる(写真提供:キユーピー)
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