「改ざん」「隠ぺい」をきっかけに政府の公文書管理のずさんさが明らかになった。脆弱な電子政府の姿は、そのまま日本のIT政策の弱さに重なる。政府主導のIT振興策も芳しい成果を上げていない。

 国有地の払い下げを決めた決裁文書が財務省内で改ざんされ、捨てたとされてきたPKO(国連平和維持活動)派兵の日報が防衛省内で1年以上も実質的に隠ぺいされていた――。

 政府は公文書を効率的に一元管理し、決裁過程や文書の内容を検証しやすくする目的で電子化を推進してきたはずだった。だが、改ざんや隠ぺいによって、公文書の電子化が実効性を伴わず、実態に合っていない姿が浮き彫りになった。

「システム使うと業務が遅れる」

 政府は省庁横断で利用できる「文書管理システム」を2012年に導入し、各省に利用を促してきた。開発を担当した総務省によると、2016年度の決裁文書の電子化率は91.4%に達する。

 一見成功に見えるが、ここに数字のマジックがある。電子化率はシステムを利用できるPCが存在しないなど「導入環境が整備されていない部署」の決裁文書を除外したもの。総務省の公開情報を基に、全ての決裁文書を母数として日経コンピュータが独自に計算し直すと、実質的な電子化率は全体で69.7%と20ポイント以上低下する。

 13府省のなかで除外が特に多く実質的な電子化率が低いのが防衛省と厚生労働省、法務省の3省だ。

 特に防衛省は、総務省発表の92.7%に対し除外文書も含めた電子化率は6.5%にまで低下する。利用環境が整っている部署が内部部局と陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊の幕僚管理部など、東京・市ヶ谷の本省ビル内にある部局に限られているためだ。陸海空の3自衛隊の現場部門ほぼ全てと防衛研究所、防衛医科大学校は導入環境が整っていない。現場部門は「PCが1人1台の環境にない」(防衛省広報室)ためシステムの利用が困難だという。

 同じような理由でシステムを利用していないのが、法務省が管轄する刑務所や少年院などの矯正施設だ。例えば受刑者への面会や外部連絡の可否を判断する決裁文書などが現在も紙で処理されている。

 厚労省は利用環境がないと報告していた33万5244件の決裁文書うち、24万9088件が実は導入環境の整った部署での書類だったと明らかにした。公共職業安定所、通称「ハローワーク」で処理していた文書だ。

 ハローワークは失業保険の給付申請など、窓口業務で大量の書類を扱う。しかし「文書管理システムを利用すると、決裁手順が窓口業務の流れに合わず業務の遅延を招く」(官房秘書課情報公開係)ため、電子決裁が不可能な部署として報告していた。汎用的なシステムだと業務に合わないという現在のシステムの弱点が分かる。

 システム運用のまずさも見えてきた。財務省のケースでは、改ざんがあった14文書のうち1文書は文書管理システムに改ざん前の内容が残っていた。しかし、財務省幹部が自主的に明かすまで、国会議員らがその事実を知ることはできなかった。

 自衛隊は2017年8月以降、各部隊が作成した日報を統合幕僚監理部が収集し、一元管理する体制に改めたはずだった。南スーダンへの海外派兵時の日報管理がずさんだった問題が2017年2月に明らかになり、その再発防止のためだった。だがその後もイラク派兵時の日報が見つからないという問題を繰り返した。システムを正しく利用できていたのか、そもそも日報を登録していたのかなどが疑問視されている。

図 中央省庁の決裁文書の電子化率
「電子化できない」部署が多い(写真:Getty Images)
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「守り」も「攻め」も不甲斐ない

 文書管理システムは公文書の管理と決裁手続きを効率化し、行政改革につなげる狙いがあった。だが改革どころではない電子政府の名折れとも言える実態が白日の下にさらされた格好だ。

 不甲斐ないのは文書管理システムだけではない。身近なところでは電子行政の重要なパーツであるマイナンバーカードの普及計画が挙げられる。政府は2019年3月末までに8700万枚を普及させる計画を立てている。だが、2018年3月時点で配布枚数は1367万枚と目標の15%強にとどまる。残り1年で現状の7倍近い枚数を配布するのはほぼ不可能だ。

図 マイナンバーカードの普及状況と計画
計画達成は遠い
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 電子政府を国にとっての「守り」のITだとすると、「攻め」となる産業振興にも手詰まり感がある。大学などの教育機関が人工知能(AI)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)に精通した人材を十分に輩出できていない。

 AI関連技術で最高峰とされる国際学会「NIPS(Neural Information Processing Systems)2017」(2017年12月に開催)に多くの論文数が採択された団体として、上位には米グーグルおよび同社の関連会社の英ディープマインド、米マイクロソフト、米IBM、米カーネギーメロン大学(CMU)、米マサチューセッツ工科大学(MIT)が並ぶ。これらを英国、スイスなどの欧州勢や中国勢が追いかける。日本で論文採択数トップ40に入ったのは、東京大学と理化学研究所の2団体のみだ。

図 AIの国際学会「NIPS」の論文採択数でトップ40に入った組織団体の例
日本は2組織のみ(出所:米インフィニアMLのデータを基に日経コンピュータ作成)
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