既存商品の拡販には、適する客、販路、訴求ポイントを考えなければならない。特徴を把握し、その特徴が強みになる新しい市場を見いだす。商品や市場の可視化には、「商品横展開分析シート」を利用できる。

 「聞いたよ岸井、1年前から販売している健康増進プログラム『ウオーキングチャレンジ』は好調らしいな。1週間3万歩を達成するとコーヒーやヘルシードリンクが当たるゲーム感覚が受け入れられたんだろうな」

 経営企画課長の西部和彦は自席の前に座ったシステム企画室の岸井雄介に話しかけた。

 「顧客からは血圧が下がった、BMI(Body Mass Index)値が改善した、といった声が寄せられています」

 「ビックデータも蓄積されていると聞いたぞ。歩行や心拍のデータが何億日分も集まっているそうじゃないか」

 「そうなんです。『ウオーキングチャレンジ』のプログラム自体は成果を上げています。ですが経営層からさらなる販売拡大を期待されて困っているんです」

 「経営者としては当然だろう。売り上げ拡大のチャンスだしな」

 「でも新規顧客を獲得するハードルが高いんですよ。これまで当行の既存顧客に向けてプログラムを販促してきました。結果、7割がこのプログラムを利用するまでになりました。残るのは健康に不安を感じていない若者層や運動ができない後期高齢者ばかりです。このことを企画担当役員に説明したら岩田主任と検討しろと言われ…」

 「元トップテラーの岩田愛衣主任のことか?」

 「そうです。岩田さんに健康増進プログラム付き商品の拡販策を説明したら『商品の強みを生かしてない』って言われてしまい…」


 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入社以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFinTech子会社F社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画の仕事を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、多くの仕事を成功させた貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は現在、企画部と共同で健康増進プログラムと金融商品をセットにした「健康増進型商品」の拡販策を検討している。この商品のコンセプトは「健康寿命と資産寿命を延ばす」である。生命寿命と健康寿命の差である要介護期間を減らすために運動習慣や食生活を改善してもらい、毎年の健康診断の結果で数値が改善すれば、投資信託や外貨預金の分配金、利率が有利になる仕組みだ。

 岸井はプログラム実施者にモチベーションを維持してもらう施策を打った。年に1回の健康診断だけではメリットを実感しづらい。そこで短期的な目標設定と報酬を得る仕組みとして、ウェアラブルデバイスやスマホで日々の歩数を計測し、目標をクリアするとルーレットを回してコンビニのコーヒーやヘルシードリンクが当たる「ウオーキングチャレンジ」を導入した。この取り組みは好評価を得た。

 A行はウオーキングチャレンジを武器に既存顧客を対象にしたセミナーで客を集めたり、既に加入している客から健康に興味がある知人や友人の紹介を受けたりして、健康増進型商品の顧客を大幅に増やした。好調な販売実績を見たA行の経営層は、さらなる既存顧客への拡販や新規顧客の獲得に向けて販売拡大策の検討を指示した。

 この検討の担当が元支店のテラー(金融機関の窓口業務係)で本部の顧客戦略チーム長になった岩田主任とシステム企画室の岸井である。岸井は健康プログラムの状況やA行の顧客を分類しターゲットなどを分析。結果を岩田主任に説明した。


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