旅行などのコト商材は、顧客が「楽しそうだ」と思う顧客経験価値を持たせることが重要だ。売り手には「ありきたりで価値がない」ものも、買い手には「価値がある」ものになり得る。ありきたり→価値創造分析シートを使い、コト商材の優れたアイデアを引きだそう。

 「聞いたよ岸井、インバウンド客(訪日観光客)を北近畿に呼び込む地域創生ビジネスは好評らしいじゃないか」

 経営企画課長の西部和彦は、廊下で見つけたシステム企画室の岸井雄介に言った。

 「それがちょっと問題がありまして、うまくいっている地域と厳しい地域が出ているんです。通年で客を呼び込める太平洋側の地域は良いんですが、冬場がダメな地域は年間を通じた売り上げが伸びないんです」

 「冬場がダメって、豪雪地帯の奧美山(おくみやま)地区のことか?」

 「そうです。奥美山地区は自然が多く、古民家が多い歴史ある地区で、春は桜、夏は川遊びやキャンプ、秋は紅葉や秋祭りといった顧客体験型商材、いわゆるコト商材を使ってインバウンド客を呼び込めています。ですが、冬場は観光資源が何もないので客が来ないんです。スキーやスノボ場建設は金がかかるから難しいですし」

 「なるほど、豪雪地帯で何もないか。ちょっと工夫する必要があるな。今回は誰と一緒に仕事をしている?」

 「新規ビジネス企画課の大場潤一次長です。奥美山地区のインバウンド客増大策の説明をしたら、商材の価値が分かっていないって不機嫌なんです」


 岸井雄介は35歳、西日本の地方銀行A銀行に入行以来システム開発に従事し、現在はシステム企画室の課長補佐である。最近A銀行が買収したFinTech子会社F社の企画部と兼務になり、さらにグループ横断的検討プロジェクトのメンバーになった。

 西部和彦は37歳、A銀行でシステム企画の仕事を長く担当し、多くの仕事を成功させてきたエース人材で、岸井の大学の先輩でもある。出向していたITコンサルティング会社から復帰し、多くの仕事を成功させた貢献が認められ、経営企画課長に昇進した。

 岸井は以前、地方創成ビジネスの企画として、A銀行の商圏にある古民家を使ったインバウンド客向け民泊サービスを企画、サービスイン後かなりの人気サービスとなっていた。

 A銀行は訪日外国人に人気がある古民家を改造して民泊に使い、併せて空港から距離のある現地への移動もカーシェアリングをパックにしたサービスとして商材化した。

 このサービスは好評で、北近畿地区を訪問する観光客が大幅に増えた。SNSで動画をアップするPRも当たり、イベントの参加予約、土産予約、旅行後の地域特産品の通販など商材の重ね売りも好調だ。

 しかし重ね売りには問題もあった。祭りなどのイベントや地酒、希少野菜、野生動物の肉を使ったジビエ料理など特産品が豊富な地域は好調だが、それらに乏しい地域は客単価が上がらず、売り上げ面で厳しい状況だった。

 特に厳しいのが、日本海側で冬場の雪が多い奥美山地区だった。奥美山地区は北近畿の中でも自然が多く、古民家も多い歴史ある地区である。春から秋にかけては花見や川遊び、キャンプ、秋祭りといったコト商材があり、一定の売り上げが確保できている。

 しかし冬場は雪が深く家に籠もるしかなく、客を呼ぶコト商材がないため、商業活動を停止している。この結果春から秋で年間分の売り上げを確保する必要があり、通年営業できる地域と比べ苦戦していた。

 これを問題視したA銀行の頭取と企画担当役員は、奥美山地区のインバウンド客からあがる年間売り上げを他の地域と同じ水準にする必要があると考え、新規ビジネス企画課にその対策の検討を指示した。

 この検討担当に指名されたのが、新規ビジネス企画課の大場次長とシステム企画室の岸井である。岸井は北近畿地区の古民家民泊のスタッフや実際に民泊を使った客の声、他の地域の地域ビジネス関係者から情報を収集し、大場次長に説明した。


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