映像配信などに使われるマルチキャスト通信は、複雑な仕組みゆえにトラブル対応が難しい。事例を通じて勘所を押さえておきたい。

 ネットワークカメラの導入事例が増えてきた。必ずしも防犯用途に限らず、製造業では工場内の製造ライン監視、病院では手術の映像記録や患者の行動把握などで活用が進んでいる。撮影した映像はサーバーに保存するだけでなく、複数の場所にリアルタイムで配信するケースも多い。その際に有用なのが、「1対多」の同報通信を実現するマルチキャストである。

 通常の「1対1」の通信であるユニキャストでは、同じ映像データでも相手の数だけ送る必要がある。マルチキャストを利用すれば、1回の映像データの送信で複数の相手に同報されるため、ネットワーク帯域を有効活用できる。今回はマルチキャスト通信にまつわるトラブルを紹介する。

全端末が映像を視聴できず

 A社は工場にネットワークカメラを置き、撮影した映像を複数の端末で視聴できるシステムの導入を決めた。同システムでは映像の配信にマルチキャストを使う。既設のLANはユニキャストだけを前提に構築してあったため、マルチキャスト対応を進めた。具体的には基幹のレイヤー3スイッチにマルチキャストの経路制御に関する設定を追加し、LAN全体で同システムを使えるようにした。

 ただ、映像配信システムはこの時点で準備が整っておらず、マルチキャスト対応の別のアプリケーションで動作検証した。マルチキャストパケットが複数のレイヤー3スイッチを経由して無事に中継され、ネットワークカメラと映像受信端末(パソコン)を配置するセグメント間でも正しく動くことを確認できた。

 ところが、映像配信システムの準備が整って動作検証してみると、全ての端末で映像を視聴できなかった。まず調べたのは、ネットワークカメラが送信したマルチキャストパケットがLAN上のどこで破棄されているのかだ。通信経路上のLANスイッチが保持するマルチキャストパケットの送受信カウンターを確認することにした。

図 A社で発生したトラブル
ネットワークカメラの映像がうまく中継されず
[画像のクリックで拡大表示]

 すると、ネットワークカメラがデフォルトゲートウエイとしているレイヤー3スイッチの受信カウンターは正常に増えていたが、その次に中継されるレイヤー3スイッチの受信カウンターが増えていなかった。つまり、ここまでの経路上でマルチキャストパケットが破棄されていることになる。

マルチキャストの経路制御に関する設定
従来の「OSPF(Open Shortest Path First)」と呼ぶユニキャスト用のルーティング(経路制御)プロトコルに加え、新たに「PIM(Protocol-Independent Multicast)」と呼ぶマルチキャスト用のルーティングプロトコルを追加した。PIMの動作方式は「SP(Sparse Mode)」とした。
デフォルトゲートウエイ
通信先が同一のネットワークセグメントではない外部の場合にパケットを転送するルーター(レイヤー3スイッチ)のこと。
マルチキャストパケットをキャプチャー
別のアプリケーションによる事前検証では本番と同じネットワークアドレスを設定していたため、レイヤー3スイッチの設定自体に問題がある可能性は低いと判断し、パケットの中身を調べることにした。

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