ANAホールディングスが10を超えるデジタル事業を進めている。瞬間移動の仮想体験、乗ると元気になるヒコーキの開発、現場力を高めるRPAの導入、「ANA経済圏」の確立―。組織を入れ替え、社外から人材を招き、夢物語をITで手繰り寄せようとしている。奇想天外ともいえる取り組みを解剖する。

 ANAホールディングス(ANAHD)は4年後の2022年度に売上高(営業収入)を2017年度比約24%増の2兆4500億円に増やし、営業利益を同約33%増の2200億円に引き上げる計画だ。実現に向けて2022年度までの中期経営戦略で3本柱を打ち立てた。その1つが商品競争力の向上や働き方改革の推進を担う「オープンイノベーションとICT技術の活用」である。この柱の下、現在10件以上のデジタル戦略プロジェクトを進めている。

 ラインアップを見ると本業の航空事業の生産性を高めるものから、一見すると航空事業とは関係ないような新事業、飛行機に乗らずに済むために本業に悪影響を与えそうに思えるサービスまで幅広い。「航空事業」と「非航空事業」という区分けと、「先進テクノロジー」と「既存テクノロジー」という技術の新しさの2軸で整理してみると、非航空事業では「AVATAR(分身)」を使った事業やドローンの事業化、宇宙旅行の事業化などを計画している。航空事業で培ったノウハウを直接生かせる新事業だ。

図 ANAホールディングスが進めるデジタル戦略プロジェクトの位置付け
宇宙からデータセンター移転まで幅広く(写真提供:全日本空輸)
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 「ドローンは物流や災害地支援、測量など様々な分野で活用が期待されているが、安全運行のルールや制度が整備されていないのが実情だ。我々はルールの策定にも積極的に関わり、将来的にドローンの総合オペレーターを目指す」。近未来のビジネスの種を作り出すためにANAHDに設置されたデジタル事業の専任部隊「デジタル・デザイン・ラボ」の津田佳明チーフ・ディレクターはこう意気込む。

マインドフルネスを機内で提供

 航空事業にも積極的にデジタル技術を活用し、新サービスの創出や既存業務の効率化を進めている。なかには風変わりなプロジェクトもある。「乗ると元気になるヒコーキ」や「赤ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」がそれだ。

 「乗ると元気になるヒコーキ」は次のような問題意識から生まれた。「長時間のフライトで目的地に着くころには精神的にも肉体的にも疲れ切ってしまう乗客は多い。乗る前より降りた後のほうが元気になっているにはどうしたらよいかを真剣に考えた」(津田チーフ・ディレクター)。

 注目したのが、集中力を高め、ストレス軽減などに効果があるとされる能力開発手法の「マインドフルネス」だ。2018年度中に同手法を取り入れた顧客サービスの実験を始める計画で、第1弾として「時差ボケ調整アプリ」を2019年4月にリリースする。フライト情報や現地での予定を入力すると、時差ボケを調整するために必要な光の浴び方や睡眠・仮眠の取り方などについて、適切なタイミングでアプリがアドバイスする。

 「赤ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」の狙いは機内で乳幼児が泣き出さないようにすること。コンビや東レ、NTTと共同で心拍数などの生体情報を基に大泣きのタイミングを予測する技術を開発する。2017年10月に実験フライトを飛ばした。赤ちゃんが泣くと周囲に迷惑をかけると心配して、飛行機に乗るのをためらう保護者は多いという。ならば赤ちゃんが泣かないような工夫をしようと考えたわけだ。

 華やかで話題性のある新規事業と並行して、既存業務の効率化にも取り組む。5年間で約1000億円を投じるデータセンターの移転や、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用した業務の自動化などである。

表 ANAホールディングスが進めるデジタル戦略プロジェクトの一覧
航空事業以外にも積極投資
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