安全でおいしい――。世界に誇る日本の「水」が危機に直面している。水道事業は低迷し、職員は減る一方。老朽化した水道管の交換も遅れている。早急に対策を打たないと日々の生活や企業活動に悪影響が生じる。高い品質を保ちつつ、必要な作業を効率化するにはどうすべきか。有力な対応策としてAIやIoTの活用に期待がかかっている。

福岡県中間市唐戸浄水場の急速ろ過地。沈殿池を経由した水をさらに細かい砂の層に通して小さなゴミを除く
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 2018年7月、国会は水道法の改正について議論した。水道基盤の強化に向けて自治体の枠を超えた広域連携や官民連携を可能にするのが狙いだ。今国会では成立せず、継続審議となった。

 議論の背景にあるのは日本の水道事業に対する危機意識だ。実際、課題は山積している。

 全国には約1300の上水道事業者が存在し、多くを市町村が運営している。厚生労働省によれば、うち約3割の水道事業が原価割れという。水道水の需要は2000年をピークに減り続け、料金収入が低迷。30年前に比べ水道事業の職員は全国で約3割減った。職員が高齢になり業務の継承も難しい。

図 管路の経年化率と更新率の推移
進まない水道管の更新
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 一方で水道管の老朽化対策は待ったなしだ。一般に水道管は設置から40年が更新の目安となる。設置から40年が過ぎた水道管の占める割合は2006年度は6.0%だったが、2016年度は15.1%と2倍超に増えた。その分、漏水のリスクが高まっている。

 だが更新された割合は実に1%未満。自治体に資金や人員の余裕がなく、対応が難しいのが現状だ。

 打開策として期待を集めるのがAI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)である。静岡県伊東市と福岡県中間市、大阪市の取り組みを見ていこう。

IoTで漏水の検知を効率化

 伊豆半島の東岸にある伊東市は水道管の監視にIoTを活用している。従来は担当者が水道管を1つひとつ点検する必要があったが、水道管に付けたセンサーの上を自動車で走るだけで情報を収集できるようにした。取り組みは2015年4月に始め、2018年3月までに市内の水道管約500キロメートル分の検査を終えた。現在は2回目の調査を進めている。

 IoTを活用した結果、17カ所の漏水を予測。うち7カ所で漏水があり、早期に修理できた。伊東市の年間配水量は1200万~1300万トンで、2014年度はうち280万トンに漏水の可能性があった。漏水があるとその分の料金を徴収できない。漏水は2016年度に93万トン減って187万トンになった。1トン当たり155円とすると、1億4400万円の「流出」を防げた計算だ。伊東市の山田昌弘水道課課長補佐は「効果は大きい」と手応えを話す。

 漏水の検知に使うセンサーは水道管の振動を検知するほか、CPUやメモリー、電池、特定小電力無線による通信機能を持つ。漏水検知機器を手掛けるスイスのガターマンが開発した。

 検査の際は対象区画の水道管に複数のセンサーを設置する。センサーには振動を何時に計測するかを設定できる。「クルマの通行や水の利用が少ない夜間に計測すると精度を高めやすい」(山田氏)。翌日の昼に受信用の無線機器とタブレットを載せた自動車でセンサーの上を走り、データを集める。

 集めたデータはクラウドに送って分析する。NECのクラウドサービスを利用し、漏水の有無や位置を相関分析で推定している。NECの高橋正三シニアエキスパートは「漏水により生じる振動は水道管を伝わってセンサーに到達する。漏水の位置がセンサーから離れているほど、振動が到達するまでに時間がかかる。この性質を使って漏水の位置を割り出している」と説明する。正確を期すため、2週間に5回同じ場所を点検するという。

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