厚生労働省が外部委託したデータ入力業務が無断で海外企業に再委託された。委託先のSAY企画は日本年金機構でも同様の契約違反をしていた。個人情報の漏洩が懸念されるが、SAY企画だけの責任とみるのは早計だ。契約が遅れ業務が未完にもかかわらず代金を支払うなど厚労省にも問題があった。入札予定額が低く、SAY企画しか応札しなかった実態も一因だ。

 会計検査院は2018年10月22日、厚生労働省の会計処理に対する調査結果を公表した。厚労省が2013~2017年度にデータ入力業務などを委託したSAY企画(2018年6月に解散)をはじめ4社の委託先と結んだ契約のうち5件で、期限までに業務が完了していないにもかかわらず、合計約1685万円の代金を支払っていた。

 「このような不適切な経理処理の事態を招いたことについて深くおわび申し上げます」。厚労省で会計監査を受け持つ大臣官房会計課監査指導室などは同日に会見を開き、こう謝罪した。

 調査では別の事実も明らかになった。SAY企画が4件の契約で、厚労省に無断で中国などの海外企業に業務の一部を再委託していた。

 厚労省は「資料の重複などで総数を把握できていないが、旧陸海軍の人事資料といった個人情報が流出した可能性を否定できない」(社会・援護局援護・業務課)と話す。無断で委託していた海外の再委託先を含め、データ入力に関する委託業務全体の実態解明に向けて、厚労省は10月から調査を始めた。調査結果がまとまるのは「2019年になる可能性が高い」(監査指導室)。

「業務遂行力に乏しい」

 一連の問題の発端は、厚労省が管轄する日本年金機構が2018年3月に記者会見で公表した事態にある。年金受給者から提出された「扶養親族等申告書」について、合計約95万2000人分のデータ入力にミスがあったとする内容だ。会見で年金機構の水島藤一郎理事長は「大変ご迷惑をおかけした」と陳謝した。この入力委託業務でも、受注したSAY企画は年金機構に無断で中国・大連の関連会社に再委託していた。

 データ入力に関わる企業で構成する業界団体である日本データ・エントリ協会(JDEA)は「発注者も責任がある」(河野純会長)と指摘する。年金機構が作業に十分な期間や費用を確保せずに発注したため、SAY企画が人手を増やして納期に間に合わせようと中国企業に再委託したとみられるためだ。

 年金機構は扶養家族の状況を把握して所得税額を計算するために、年金受給者に毎年「扶養親族等申告書」の提出を求めている。同申告書は2017年にマイナンバーの記入欄を追加するなど、大幅な様式変更があったばかりだ。

 年金機構は2017年8月に同申告書の発送を開始した。同月、SAY企画は最低落札価格方式の一般競争入札で、2017年度分として約528万人分の申告書についてデータ入力や画像化の業務を受託した。入力1人分当たり14.9円などで調達見込み総額は1億8254万7000円だった。年金機構は契約書に再委託の禁止と、業務場所を国内に限ると明記した。

 SAY企画は同年10月から委託業務に取り掛かったものの、年金機構が11月以降の検品で入力ミスなどを多数見つけた。同年12月末にはSAY企画が法令に違反しているという匿名のメールが年金機構に届いた。

 これに基づき、年金機構が2018年1月にSAY企画に立ち入り監査すると、同社が無断で中国の関連会社に業務を再委託していた契約違反が判明した。SAY企画はこの関連会社に対し、申告書に記載された氏名の漢字とフリガナをそれぞれ画像データで切り出し、クラウドストレージサービス経由でデータ入力を再委託していた。

 立ち入り監査と前後して、年金受給者から「年金機構から届いた源泉徴収票の名前が違う」といった苦情が寄せられた。年金機構は日本IBMにSAY企画に対するフォレンジック調査を依頼した。その結果、入力ミスはSAY企画が国内の作業で引き起こしたものだと分かった。再委託先に送付した情報はマイナンバーを含んでいないことも判明した。個人情報の外部流出の恐れもないとの結論だった。

 一方、入力の誤りや漏れによって年金の支給額に影響があった受給者は延べ約14万9000人に上った。影響の大きさを受け、第三者委員会が調査し、2018年6月に報告書をまとめた。

 報告書はSAY企画について「業務を履行する能力に乏しかった」と指摘した。約800人の入力作業者をそろえるとしていたところ、約130人しか確保していなかったからだ。一度入力したデータを別の担当者が再入力して品質を高める「ベリファイ入力」を実施していなかった事実やOCR(光学的文字認識)処理で読み取り精度が低かった漢字を中国企業に入力させていたことも分かった。SAY企画では納期遅れが常態化し、工程ごとに入力件数を確認する作業も怠っていたため、大量の入力漏れが発生した。

 報告書によれば年金機構の職員は早くから作業の遅れなどを把握して担当理事に報告していた。だが、担当理事は他の委託先の選定に時間がかかるとしてSAY企画に遅れを取り戻すように指示。結果、理事長への報告は2018年1月まで遅れた。

 厚労大臣の業務改善命令を受け、年金機構は再発防止策を出した。年金機構の事業所で委託先に業務を行わせて管理を徹底する「インハウス型委託」や、金額だけでなく委託先の技術力なども評価項目とする「総合評価落札方式」の採用など挙げた。

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