ダイキン工業が生き残りをかけて、AI(人工知能)人材の育成に乗り出した。社内大学を設け、技術や組織の「つなぎ役」を1000人生み出す計画だ。機械や電気系の人材だけでは製造業は生き残れないとの危機感を強くする。

聞き手=日経 xTECH副編集長 川又 英紀

井上 礼之(いのうえ・のりゆき)氏
1935年生まれ。京都府出身。1957年同志社大学経済学部卒、同年大阪金属工業(現ダイキン工業)入社。1979年2月取締役、1985年2月常務取締役、1989年6月専務取締役。1994年6月社長、1995年5月会長兼社長。2002年6月会長兼CEO。2014年6月から取締役会長兼グローバルグループ代表執行役員(現職)。(写真:山本 尚侍)

AI人材の育成に力を入れる理由は。

 当社は製造業ですからエンジニアはたくさんいます。でも情報系の技術者は少ないんです。ダイキン工業単独でみると従業員約7000人のうち100人くらいしかいません。急ピッチで増やさなければならない。情報系の技術力で見ると、当社は競合に比べて一番遅れている会社だと思っています。

 当社は生産技術の分野や業務改善は得意ですし、売り上げの90%以上を占める空調事業の製品力には自信があります。でもこの先は分かりません。

 1つ言えるのは、AIやIoT(インターネット・オブ・シングズ)を使いこなして強みを伸ばさなければグローバル競争には勝てないということです。だから最新の情報技術を理解し、使いこなせる人材を育てると決めました。

AIやIoTを学べる本格的な社内大学を設立するとは、珍しい取り組みです。

 当社の研究開発拠点である「テクノロジー・イノベーションセンター」内に、2018年4月に「ダイキン情報技術大学」を作りました。この大学は情報技術を学ぶ場と位置付けています。

 2017年7月に大阪大学と包括連携し、産学協創を始めました。ダイキンは阪大に10年で総額約56億円(毎年5億円のほか、実験設備費など6億円)の運営費を提供します。

新人100人は2年間、勉強に専念

 この関係に基づき、ダイキン情報技術大学の学長には阪大の副学長に就いてもらいました。さらに大学と企業の壁を越えて人材交流を促す「クロスアポイントメント制度」を活用し、阪大にいる情報系の教授らに、ダイキン情報技術大学の先生になってもらっています。ダイキンの業務知識も学べるように、当社のベテラン社員にも講師を務めてもらいます。

 ダイキン情報技術大学に通うのは、2018年4月に入社した新人351人のうち、理系を中心に自ら大学に通うことに同意して手を挙げた100人です。100人は入社後2年間、ダイキン情報技術大学の「生徒」です。私は「給料は出すけど、仕事はせんでよろしい。勉強しなさい」と言っています。

勉強が仕事だと。

 ええ。2018年4月入社の社員を採用した段階では、ダイキン情報技術大学の話を詰め切れておらず、何も説明していませんでした。入社するなり「AIやIoTが分かる情報技術者になってくれ」と言われて、新人たちはかなり驚いたでしょうね。

 当社に来る理系の学生は機械系や電気系、化学系が多い。入社したらエアコンを作るんだろうなと思っていたでしょうね。それが、やっと大学を卒業できたと思ったら、また「大学」に入り直すことになったわけです(笑)。

新人はどんな反応でしたか。

 多くの新入社員が手を挙げてくれました。AIやIoTの重要性を理解している若者が多く、「ぜひやりたい」と言ってくれました。AIやIoTの話題がこれだけ新聞などに出てくると、新人たちも「勉強しておいて損はない」と思ったのでしょうね。

 一方、2019年4月に入社する新人は、今年とは状況が違います。ダイキン情報技術大学の存在を、採用段階から知っているのです。そこに魅力を感じて、ダイキンに来てくれる学生もいるのではないでしょうか。

 今年を含めてまず3年は、新入社員のうち100人をダイキン情報技術大学で教育していく計画です。既存社員の教育も同時に進め、2020年度にはAIやIoTの技術者を700人養成するのが当面の目標です。2022年度には1000人まで増やそうとしています。

AIやIoTの人材確保にそこまでこだわるのはなぜですか。

 製造業は要らなくなると言う人がいますが、私はそうは思いません。我々にはものづくりの知見や匠の技があります。当社でいえば、どこよりも多く空調のデータを持っている。だからメーカーは生き残れると思います。

 もちろん、データを持っているだけでは駄目です。これから最も重要になるのは、ハードとソフトの融合だとみています。もっと極端な表現をすれば、人とAIの使い分けと言ってもいいかもしれません。どの仕事をAIに任せて、人はどこを受け持つのか。製造業の今後のビジネスを考えるうえで、我々が長年蓄積してきた空調のビッグデータは必ず役に立つと思います。

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