デジタルトランスフォーメーション(DX)はバズワードではない。DXの本質は変革。変革なき企業は生き残れない。先進事例を徹底研究し、DX成功の要諦を探る。

 DXを担う人材をどう確保するかは、各社にとって悩ましい課題だ。塩野義製薬は社員を武者修行で鍛え、アシックスはベンチャーの買収によって得た外部人材を活用している。KDDIは社長肝煎りでアジャイル専門部隊を拡大させている。

未来のデジタル人材、コンサル会社で鍛える
塩野義製薬

 「武者修行を希望します」。塩野義製薬のIT子会社シオノギデジタルサイエンスでインフラ関連業務を担当していた大屋真彦氏は上司に申請した。コンサルティング会社のアクセンチュアに2018年4月から1年間出向し、コンサルティング業務に就くプログラム、その名も「武者修行」に応募する意思を固めたからだ。

アクセンチュアに出向してコンサルタント修行に励む塩野義製薬の大屋真彦氏
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 「もちろん不安はあったが、興味のほうが上回った」と大屋氏は当時の心境を振り返る。2008年に塩野義製薬に入社した大屋氏は製造部門への配属を経て、2015年からIT関連業務に携わってきた。「入社して10年間、塩野義製薬だけを見て仕事をしてきた。長い時間をかけて外の世界に入り込めるのは貴重な経験になる。そう考えて決意した」(大屋氏)。

 武者修行の第1期メンバー5人の1人として選ばれた大屋氏は2018年4月、家族を大阪に残して都内で1年間限定の一人暮らしを始めた。最初の2週間は中途採用者向けの研修プログラムを受け、次の2週間はRFP(提案依頼書)にどう回答するかを学んだ。

 そしていよいよ5月から8カ月間、現場に出た。製造・流通部門の顧客企業でハイブリッドクラウド基盤を構築するプロジェクトに参加したのだ。塩野義製薬からの出向者であると顧客企業に伝わっているものの、オブザーバーではない。あくまでアクセンチュアの1社員としての役割を果たさなければならなかった。

 最初の4カ月間はPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)業務を主担当者の下で担当し、残りの4カ月間は顧客企業が社内ユーザーにハイブリッドクラウド基盤を使ってもらうためのガイドラインを作ったり、課金体系を検討したりした。

 「コンサルティング会社に身を置くことで、論点の整理や議論の主導といったプロジェクトを前に進めるための能力が少しずつ身に付いた実感がある」。アクセンチュアにおける業務スピードやコミュニケーション量の多さに驚いたという大屋氏だが、表情は充実感に満ちている。2019年1月から3カ月間参加するAIを使った実証実験のプロジェクトで「先進技術を取り入れる際のポイントを学ぶ」と意気込む。

図 塩野義製薬の大屋氏の出向前後におけるスケジュールの比較
「チームでの仕事」を修行で学ぶ
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DXの推進役だからこそ送り込む

 武者修行に5人を送り出した塩野義製薬の沢田拓子副社長は「ライフサイエンス分野はまだ生産効率が低く、デジタル技術の活用余地が大きい」と話す。2017年4月にシオノギデジタルサイエンスを設立した理由は、社内システムの開発運用を担っていたシステム部門を変える狙いがあったからだ。「事業部門の課題解決や新技術の導入を通して、DXをリードする組織になってほしかった」(沢田副社長)。

 しかし、自社だけでは人材の獲得や教育が追い付かない。そこで沢田副社長は「運用や保守の業務のアウトソーシングと、デジタル人材の育成を任せられるパートナー企業を探した」と武者修行を始めた経緯を明かす。

 DXの推進を担う人材として、事業とITの両方を理解し、実際にプロジェクトを動かしていく能力を身に付けてほしい。これが塩野義製薬のシステム部門への期待だ。

 「システム担当者が受け身のままではDXは進まない。事業部門が本当に求めているものを聞き出し、時としてかんかんがくがくの議論もしながらでなければ良いものは作れない。社外の厳しい環境で経験を積んできてほしい」(沢田副社長)と考えて5人を送り出した。

 「顔つきが変わってきた」。沢田副社長は武者修行中のメンバーの変化に手応えを感じている。武者修行プログラムは第2期の実施を決めた。社外でもまれた人材が塩野義製薬のDXを推し進め、周囲に良い影響を与える効果を期待しているという。

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