デジタル変革のためにはITガバナンスがデジタルガバナンスに進化する必要がある。既存のフレームワークを活用しながら、新たなガバナンスを確立していこう。パートナー間で共有するためのフレームワークの刷新も求められる。

 この連載は企業に価値をもたらすデジタル変革(DX:デジタルトランスフォーメーション)を組織としてどのように実践すべきかを、事例を交えつつ説明している。デジタル変革はAI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)をはじめとするデジタル技術を活用して、新たな事業やサービスの創出、顧客満足度の向上などを狙う取り組みを指す。

 最終回となる今回はこれまでを振り返りながら、デジタル変革に必要なガバナンスについて解説していく。

5つのデジタルガバナンス領域

 デジタル化によってITはビジネスアドミニストレーション(管理)の道具から、ビジネスをエグゼキューション(実行)するための道具へと進化する。それに伴ってCIO(最高情報責任者)の役割はIT活用の責任者からデジタル変革の実行責任者であるCDO(最高デジタル責任者)へと広がっていく。

 CIOがCDOに進化するのか、既存システムの提供責任者であるCIOとデジタル変革責任者であるCDOが分業化されるのかは企業の状況によって異なる。いずれにしてもマネジメントのよりどころとして、従来のITガバナンスをデジタルガバナンスの方法論に改定する必要がある。

 これまでの連載でも説明してきた通り、デジタルガバナンスは(1)バリューガバナンス、(2)プロセスマネジメント、(3)ケイパビリティーマネジメント、(4)アーキテクチャーマネジメント、(5)リスクマネジメントから構成される。以下でその詳細を見ていこう。

図 デジタル変革の全体像
ITガバナンスのフレームワークを拡張して作成する
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(1)バリューガバナンス

 バリューガバナンスはデジタル化による価値創造のマネジメントを指す。デジタル化戦略の策定、デジタル投資のマネジメント、デジタル投資の成果の評価、の3つの項目で構成する。

 デジタル化戦略の策定ではデジタル変革によって実現すべき新たな産業像を「戦略設計図」として描く。そして戦略の達成に向けて必要な組織能力の拡張目標を、ストレッチ戦略として策定していく。

 これまでの連載において、デジタル変革の設計図には3つのタイプがあると解説した。1つが技術ドリブンの水平分業型部品提供者、2つめは顧客ドリブンの水平分業型顧客価値提供者、そして最後がシステム(仕組み)ドリブンの垂直統合型顧客価値提供者である。自社の目指すタイプをこの時点で選択する。

 2つめのデジタル投資のマネジメントでは、デジタル化戦略を実行可能にするために、デジタル変革投資と既存システム投資の配分を決定する。デジタル変革投資は事業開発投資である。一方で、既存システムへの投資は設備投資に該当する。これらを踏まえてIT投資のポートフォリオを構成する。そして個々のデジタル変革案件についてステージゲート管理によって、実用化に至る段階を管理する。この考え方は米ITガバナンス協会(ITGI)が提唱するIT投資フレームワーク「Val IT」の考え方を拡張したものである。

 最後のデジタル投資成果評価では、デジタル変革の成果として考えられる知識創造や業務プロセス効率のアップ、顧客価値の創出、持続的成長の達成を、バランススコアカードの考え方に沿って評価する。そして評価結果を新たな価値創造サイクルへフィードバックする。

(2)プロセスマネジメント

 プロセスマネジメントは、価値創発サイクル、ブリッジプロセス、価値増幅サイクルで構成するデジタル変革の実行プロセスのマネジメントを指す。

 価値創発サイクルではITを活用しながら試行錯誤を繰り返し、新たな製品・サービス、業務プロセス、数理モデルの試作品を作製する。この過程においてはブレインストーミングやプロトタイピングによるデザイン思考(シンキング)の考え方を適用する。

 ブリッジプロセスは試作品をビジネスの現場で利用可能なサービス部品として実用化する工程を指す。同時にサービス部品の構造を戦略設計図が描くビジネスデザインと全体アーキテクチャーと整合するように全体をコントロール(統制)する。ブリッジプロセスの実行には、製造業で新製品を市場に投入する際に垂直立ち上げを行う手法である「コンカレントエンジニアリング」や、システム構築の考え方である「SOA(サービス指向アーキテクチャー)」を適用する。

 最後の価値増幅サイクルでは、業務プロセスや顧客向けのサービスに新たなサービス部品を組み入れる。そして事業部門で新たなサービス部品を組み入れたプロセスや顧客サービスを実行し、評価と改定を繰り返していく。価値増幅サイクルの実行には、品質管理の手法である「シックスシグマ」や、シックスシグマを基にした現場主導による継続的な改善プロセスである「DMAIIC(Define、Measure、Analyze、Improve、Implement、Control)サイクル」を適用する。

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