岩手県遠野市に残る仮設住宅だ。東日本大震災後につくられた仮設の中でも、コミュ二ティー形成の点で評価が高い。サポートセンターを核に、屋根付きデッキで住戸をつなげることにより、高齢者を中心に交流の輪が生まれた。

 2011年7月の竣工から8年。今年2月に最後の入居者が退出した仮設住宅「希望の郷(さと)『絆』」を、遠野市の職員の案内で見学した。東日本大震災後の被災地の復興をつぶさに見てきた建築家の内藤廣氏が、建築界の様々な取り組みのなかで惟一、「今後に役立てるべき事例」と評したプロジェクトだ。

 仮設住宅というと、住棟を画一的に南面平行配置した光景が頭に浮かぶ。だが、ここでまず目を引くのは、玄関が向かい合わせに配置され、アーケードのような屋根が架けられた住棟だ〔写真1〕。そこから西側に進むと、屋根付きデッキと住戸でコの字に囲まれた広場が広がる〔写真2〕。前者は高齢者世帯を中心とするケアゾーン(9戸)で、後者は子育てゾーン(10戸)。全40戸のうち19戸がデッキでつながる。それ以外は通常の南面平行配置〔写真34〕。全戸が木造だ。

〔写真1〕屋根付きデッキと広場が交流を促進
住戸の玄関を向かい合わせに配置した西側のケアゾーン。震災から4年目の初夏の様子で、七夕飾りが吊るされている(写真:遠野市)
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サポートセンター前の広場で行われた震災追悼式(2018年3月11日)の様子(写真:遠野市)
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〔写真2〕サポートセンターとのつながりで安心感
北側にある子育てゾーン住戸の前から広場を見る。住戸前の木製デッキは、サポートセンターへとつながる。屋外のデッキは、「中間期の天気の良いときに、屋根の下で雑談することが度々あった」と入居者の1人は言う。「ただ、冬場は寒くて外で話せないので、サポートセンターの方が重要だ」とも。写真は2019年8月に撮影(写真:日経アーキテクチュア)
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〔写真3〕安心感は好評も「足音」は…
ケアゾーンの住戸。デッキも屋根架構も住戸外壁も木製で、安心感を与える。入居者からは「デッキを歩く人の音が寝室に伝わる」という指摘もあり、これについては大月敏雄教授も「デッキとの縁を切る工夫が必要だった」と語る。竣工直後の2011年7月下旬に撮影(写真:守山 久子)
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〔写真4〕半数の住戸は南面平行配置
全40戸のうちの21戸(6棟)は通常の南面平行配置。当初、向かい合わせ住戸に入居していたが、希望してこちらに移った人も2組いた。竣工直後の2011年7月下旬に撮影(写真:守山 久子)
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 設計したのは東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)と、地元の第3セクター工務店であるリンデンバウム遠野。設計の中心になったのはIOGの一員で、東京大学で住宅の建築計画を研究する大月敏雄教授だ。

 同教授は振り返る。「阪神大震災(1995年)後の仮設住宅では、高齢者の孤独死が200件以上あったといわれる。東日本大震災後のIOGの集まりで、『高齢化率は阪神のときの2倍以上になっており、阪神の二の舞にならないような仮設住宅をつくるべきだ』と話した。それならば、実際に提案しに行こうということになった」

 2011年5月頭、IOGのネットワークでアポイントを取ることができた釜石市長と遠野市長に、仮設住宅の改善案を提案した。「会えた首長はこの2人だけだが、どちらもIOGの提案を採用してくれた」(大月教授)

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