手元の資金に常に余裕がなく、所長が自らの役員報酬の支払いや立て替え経費の精算を留保する。そうした、いわゆる自転車操業の状態を招きそうな場合、いかに脱するか。「資金繰り表」を使って考えてみよう。

(イラスト:香川かづあき)

 建築設計ビジネスは、施工一体型などを除けば元来は労働集約型の技術サービス業なので、設備型の産業のように初期投資が大きかったり、資金の回収サイクルが長期にわたったりすることは少ない。それでも大型のプロジェクトの依頼があれば、受注の確定から竣工までの期間はそれなりに長くなる。中小事務所では、毎月の収支が不安定になる場合も多い。売上代金(売掛金)の回収方法やプロジェクトの進め方を誤ると、資金難に陥りかねない。

 建築設計事務所の事業モデルの特性として、外注費(買掛金)や所内のスタッフの人件費は通常、労務または役務の提供月の翌月(あるいは翌々月)に、その支払日がやって来る。一方、設計報酬の回収は通常は事後になるため、資金的なタイムラグが生じる(連載第2回、9月12日号参照)。この上下動を埋めるための資金の余裕がないと、冒頭のように所長が無理をしたり、各種の支払いが滞ったりといった事態に陥る。

 自転車操業のリスクを小さくするため、「資金繰り表」〔図1〕の作成を励行してほしい。

〔図1〕資金繰り表でキャッシュの動きを予測し、資金調達計画を立てる
売上1億円、従業員数10人程度の事務所の資金繰りモデル:2月末ごろの資金ショートを懸念し、9月に運転資金を借りている。利息負担は増えるが、資金の余裕度を全体に高め、経営の安定性を確保する結果となっている。(2)買掛金支払は外注経費などの支払い、(3)人件費はスタッフ給与や社会保険料の支払い、(4)諸経費は販管費などその他経費の支払いを指す(資料:公認会計士山内真理事務所)
[画像のクリックで拡大表示]

 ガントチャート(工程管理表)に類する書類をプロジェクト別に作成し、時系列でお金の出入りを記録している事務所は少なくない。しかし、ビジネスとしての採算割れを防いだり、事務所としての資金が尽きそうになる時期を察知したりするためには、それだけでは間に合わない。販管費の負担などを含め、事務所全体の収支を把握していなければ資金状況をコントロールできない。

 資金繰り表は、近い将来の資金残高や、その推移を合理的に予測するためのツールだ。気付いたら事務所の口座残高が底をついている、下手をするとその理由すら分析できないという事態を避け、資金状況が危険水域に達しないようにコントロールするために欠かせない。

 なお、資金繰りを工夫する以前に、連載第2回で解説したように、採算管理によって利益を出せるビジネス構造をつくるようにしなければいけない。それができていれば、支出・収入のタイムラグによって不安定になる時期があるとしても、長期的には、資金残高が尽きるような深刻な問題には発展しないはずだ。

資金のショートに備える

 では、資金繰りを予測した結果、資金がショートする危険があると分かったらどうするか。

 まずは現在進行中の各プロジェクトからの入金のタイミングを工夫してほしい。建築設計の場合、企画段階から基本設計、実施設計、工事監理の各段階の業務に、それぞれ対価の額と支払いの時期を設定し得る。長期のプロジェクトであれば、フィーの支払いの時期を細分化し、進捗に応じて回収できるようにクライアントと交渉するといった工夫もあり得る。

 事業が成長する時期には通常、運転資金が不足するため、長期で借り入れるなどして資金に余裕を持たせることも大切だ。大型案件によって資金が不安定になる時期などには、短期のつなぎ融資という手もある。

 もっとも、借り入れが成功するためには、返済の目途が立つこと、利息負担以上の利益を出せることが条件になる。それらをクリアできれば、借り入れは経営の安定度・自由度を高めるよい手段となる。

 いざ融資の申し込みをする段階では、足元の数字がまとまっていなければならない。つまり、極力リアルタイムで帳簿を付け、いつでも試算表を提出できるようにしておく必要がある。今回のモデルにしている従業員数10人程度を上回るような規模の事務所であれば、月次決算の実施を推奨したい。

この先は有料会員の登録が必要です。「日経アーキテクチュア」定期購読者もログインしてお読みいただけます。今なら有料会員(月額プラン)が2020年1月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら