建築設計事務所の経営を、いかに安定させるか。その持続可能性を高め、理想とするビジョンを実現するためには、事業体としての「損益管理」を、きちんと行う必要がある。今回は、その基本的な考え方を整理してみたい。

(イラスト:香川かづあき)

 「損益管理」とは、すなわち事業の採算性の向上を図るための手段だ。「採算管理」と言い換えてもよい。会計上は、損益計算書(PL:Profit and Loss statement) に関係する事項となる〔図1〕。

〔図1〕事業にかかる「努力」と「成果」を管理する
損益計算書(PL)に表れる要素のうちの基本部分。PLは、成果(収益)と努力(費用)をその因果関係に着目して、期間的に対応させる構造になっている。なお、原価管理に関しては、未完了のプロジェクト分まで正しく集計されている必要がある。例えば未完了プロジェクトの制作費は「仕掛品」として貸借対照表上の「資産」に振り替え、原価から控除するといったことが行われるからだ(資料:公認会計士山内真理事務所)
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 建築設計事務所は、建築設計や工事監理の業務の対価として、クライアントからフィー(報酬)を受け取る。これは、会計上は「売上(高)」として計上される。その数字は、事務所の携わる事業の「成果」を示す指標だと言ってよい。

 一方、その成果を獲得するためには一定の「努力」を要する。こちらの業務に関わる支出は、会計上は「費用」として計上される。いわゆる「コスト」と呼んでいるものだ。

 売上を増やす努力の仕方には様々あって、それに従い、会計上の費用の発生の仕方が異なる。大きくは、(1)原価(売上原価)、(2)販管費の2つがある。

 原価とは、主に建築設計サービスの価値提供のために直接必要となるコストのことだ(中身の例は〔図1〕の下段を参照)。特に大切なポイントは、建築設計サービスの原価をプロジェクト単位で漏れなく識別し、逐一集計していくことだ。これが、損益の数字を把握するための基礎となる。

「営業努力」も見極めが肝心

 販管費とは、建築設計サービスの販売(促進)、あるいは事業の管理のために必要となるコストのことだ(中身の例は〔図1〕の下段を参照)。

 このうち、よく問題になるのがコンペ費用のかけ方ではないか。これは営業コストの一部なので、コンペに落選しても原価としては顕在化せず、販管費の中に吸収される。しかし、労力を注いだコンペほど、落選による痛手(=損失額)は大きくなる。事務所として次のステージに向かうために惜しみなくエネルギーを注ぐ努力も大切だが、攻め時や攻め方を見極めないと経営を圧迫する問題になりかねない。

 また、受注が確定しないうちから調査や企画に力を入れ過ぎてしまい、相談に応じるコストなどが積み重なった結果、経営を圧迫している光景を、しばしば見かける。これも「失注」(受注失敗)の場合は、営業コストの一部として販管費の中に吸収される。

 コストの持ち出しには限度があると認識し、仮に失注しても経営が大きく傾かないように加減する必要がある。クライアントとの力関係や交渉力にもよるが、提案の価値を高め、そこに個別に対価を認めてもらうなどの手段もあり得る。

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