2019年のプリツカー建築賞が5月24日、磯崎新氏に授与される。この10年で日本人の受賞は4組目。受賞者の多さはアジア進出のためのブランド力となっている。しかし、さらなる飛躍のためには、日本建築界の強みを客観的に知っておく必要がある。アジアの建築界に詳しい3人の専門家に聞いた。

「個の力」育てた社会構造に変化

Martha Thorne(マーサ・ソーン)氏
プリツカー建築賞エグゼクティブ・ディレクター、IE建築・デザインスクール学部長
Martha Thorne(マーサ・ソーン)氏 米国のニューヨーク州立大学バッファロー校卒業後、ペンシルベニア大学で都市計画学修士号を取得。英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでも学ぶ。シカゴ美術館で建築部門のアソシエイト・キュレーターとして展覧会の企画や出版物の発行、資料の収集・保管・展示に関する研究に従事後、2009 年よりスペインのIE建築・デザインスクールに参加、15 年より同学部長。05 年よりプリツカー建築賞エグゼクティブ・ディレクター(写真:IE School of Architecture and Design)

 磯崎新氏は46人目のプリツカー建築賞受賞者で、日本人では8人目だ。これまでの受賞者の出身国を見ると、日本は最も多く、なぜこんなに多くの日本人が受賞するのか、という質問をよく受ける。

 断っておくが、プリツカー賞の選考に国籍や地理的条件は関係ない。

 国際建築家連合(UIA)の資料によると、日本には30万人を超える一級建築士と約8万人の建築学生がいるという。この数字はプリツカー賞受賞者を輩出する可能性が日本の建築界は潜在的に高いことを示すものといえる。

 その一方で、世界の設計事務所の大手100社のなかに日本の設計事務所は5社しかない。日本の設計事務所の大多数は建築士が100人未満の中小企業と考えられる。大企業でなくても重要な仕事を依頼されるという社会構造自体が、建築の多様性を生み出し、品質を追求する文化の根底にあるのではないか。

地域に根差すアジアの猛追

 ただ、個人事務所の建築家だけが“本物の”建築家であるという過去の誤った定義や信仰は捨て去るべきだ。建築界は技術革命の最中にある。また、建築界が直面する課題は複雑で多岐にわたり、それらを解決しながら要求を満たし、持続的に建物をつくるには、異なる役割を果たす様々な専門家が不可欠だ。

 21世紀の日本では、新しい建築への取り組みが前世紀より多様化していると思う。それを“混乱状態”と言う人もいる。しかし、今日の社会は建築や都市の問題に対して新たな取り組み方を必要とする場合が多い。日本では、そうした要求に質の高い仕事で応える設計事務所が増えている。

 一方、中国や東南アジア諸国も急速に発展しており、建築家や新しい建築の需要が高まっている。この数年、たくさんのアジアの建築家が海外で勉強したり、国際的なイベントに参加したりして、世界との交流のなかで、より良い建築を模索している。そして多数の事務所が設立され、その仕事は自国にとどまらない。

 アジアでは特に、世界的な課題を認識しつつも、地域の文脈や素材、文化を建築に採り入れようとしてリスクを負う覚悟のある若い建築家が目に付く。彼らから刺激的なアイデアや取り組みが生まれていると感じる。

(マーサ・ソーン氏の記事は、メールのやりとりで構成した)

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