日本では、公共空間を設計したくても、実績がなければ受注は容易でない。しかし海外では事情が変わり、門戸を開ていることが多い。成瀬・猪熊建築設計事務所は韓国での展覧会参加が、初の海外かつ公共案件につながった。

 2019年3月、韓国ソウル市にある緑莎坪(ノクサピョン)駅のオープニングに、成瀬友梨氏と猪熊純氏が登場した〔写真1〕。成瀬・猪熊建築設計事務所(東京都杉並区)は18年8月に国際指名コンペで当選し、駅の改修プロジェクトを手掛けた。同事務所にとって、初めての海外案件となる。

〔写真1〕市民の期待集まる駅改修
3月14日に行われたオープニングの様子。多くのソウル市民が訪れた。写真中央に立ちマイクを持つのが猪熊純氏、その右奥が成瀬友梨氏 (写真:成瀬・猪熊建築設計事務所、a round Architects)
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 プロジェクトは、市内の公共スペースをアート空間に変えることを目的とした事業の一環だ。成瀬氏たちは、地下4階から地下1階の4層にわたる既存の円形ドームに、白色のエキスパンドメタルを3層分、鳥かごのように取り付けた〔写真2〕。トップライトから差し込む光がパネルに当たり、空間全体が白く浮き上がる〔図1〕。

〔写真2〕光を主役にする提案
季節や天候によって光の入り方や内部の印象が大きく変わる。エキスパンドメタルを使い、見下ろしと見上げの視線の角度によって透け方が異なるようにした(写真:成瀬・猪熊建築設計事務所、a round Architects)
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〔図1〕通路からの見え方にもこだわり
吹き抜けのドーム空間の下に地下鉄のホームがある。地下1階の通路(1)を歩くと、ランタンのような白い空間が先にあることが分かる。エスカレーター周りなど、視線がぶつからない程度に開口部をランダムに設けた(写真・資料:成瀬・猪熊建築設計事務所、a round Architects)
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 「光が主役となる空間をつくりたかった。改修前は内装がメタリック調でうるさかったので、視覚情報を整理するためにもパネルでふわっと覆うイメージにした」と、猪熊氏は語る。

物価の安さに刺激受ける

 これまで日本国内でシェアハウスなどの設計を手掛けてきた同事務所。韓国で開かれた展覧会に何度か参加していたところ、関係者の目に留まり、ソウル市が開催するコンペの招待を受けた。

 「当初は日本人がつくるものを政治的に受け取られたらどうしようかと不安もあったが、杞憂(きゆう)だった」と猪熊氏は振り返る。成瀬氏も「発注者たちは良いものをつくろうというスタンスで非常に協力的だ。韓国に新しいネットワークができた」と話す。

 カルチャーショックを受けたのが、施工費の安さと、構造設計の自由度だ。日本は施工費が高騰し、減額調整に追われることがほとんどだ。「韓国は物価が安いので、限られた予算でも大規模なものをつくれる。場所が変わることで創造力がかきたてられることを実感した」(成瀬氏)

 構造計算は日本の構造家が安全性を確認した後、韓国の構造家に現地の法規などとの照合や、チェックを依頼した。「韓国では構造家個人に与えられている裁量が大きく、構造家の確認で進められた場面もあった。それもあり、半年弱の短工期が成立した」と猪熊氏は言う。

 オープン後、多くの市民がエスカレーターの周りで写真を撮るなど、ドームを楽しんでいる。成瀬氏は「良い経験になった。今後も海外に出て行きたい」と前向きだ。

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