いまや建築の情報は、ウェブやSNSを通じてあっという間に世界へ拡散される。今日にも唐突に海外から依頼が届くかもしれない。最新プロジェクトから傾向を知り、起こり得るリスクを学ぶことで海外進出のチャンスを逃すな。

 「事業が急に凍結した」「設計料を回収できない」「デザインが盗まれた」。海外でトラブルに遭い、警戒心を持つ設計者は少なくない。しかし、各国の事情は変わりつつある〔図1〕。

〔図1〕注目プロジェクト、成功の勘所
中国・武漢
ICU 小米(シャオミ) 武漢本社
  1. 受注の経緯
    国際指名コンペ。日本の著名な建築家の紹介を依頼されたが、時間的猶予がなくICUが参加することになった
  2. 契約
    発注者が用意した契約書をベースに交渉。税金は、中国側を発注者、日本側を設計者が負担
  3. 設計料規定
    コンペ参加費として300万円が支払われた。設計料は、4段階で受け取る。海外建築家ということでの上乗せはしない
  4. 確認申請、法的対処
    ローカルアーキテクトに依頼
  5. 体制
    日本のランドスケープアーキテクトや構造、設備の設計者などとチームを組んでコンペに参加。現地に常駐スタッフは置かず、長田代表自身が定期的に現地に赴く
  6. 今後の展開
    中国・北京のほか、ベトナムでの仕事も依頼が来ている

韓国・ソウル
成瀬・猪熊建築設計事務所 地下鉄駅の改修「Dance of Light」
  1. 受注の経緯
    韓国国内の展覧会に招待されて、参加。そこで関係者の目に留まり、国際指名コンペの招待を受けた
  2. 契約
    プロジェクトマネジメントを受けている会社と、設計業務の契約を結んだ。契約書は双方で内容を確認したものを使用。当初は制作費・設置費を含めた契約を求められたが、その部分は、プロジェクトマネジメントの会社に任せて別とした
  3. 設計料規定
    コンペは参加費を受領。設計料は契約時に半額、竣工時に残りの半額を受け取った。ソウルでの打ち合わせや現場監理は渡航費・宿泊費がかさむので、発注者が渡航費・宿泊費の全額を支払うという条件を契約時に受け入れてもらった
  4. 確認申請、法的対処
    現地の法規の確認についてはローカルアーキテクトに依頼。構造は日本の構造家に確認してもらいつつ、最終的に韓国の構造家が計算、現地の法規制に適合することを確認した
  5. 体制
    基本設計を成瀬・猪熊建築設計事務所、実施設計を成瀬・猪熊建築設計事務所とローカルアーキテクトの共同で手掛けた。監理はローカルアーキテクト、成瀬・猪熊建築設計事務所は監理監修を担当。現場には月に1、2回通った
  6. 今後の展開
    中国・北京のほか、ベトナムでの仕事も依頼が来ている

インド・ムンバイ
Squareworks ヴァドーダラーの個人住宅ほか
  1. 受注の経緯
    インド・ヴァドーダラーでの事務所勤務の経験を経て、ムンバイに事務所を開設。現状の受注は、以前からの知人を通じたもの
  2. 契約
    独自の契約書を用意し、その都度、クライアントと設計・監理の契約書を交わしている
  3. 設計料規定
    政府機関であるCouncil of Architectureの定める規定があるが、実際に求められる仕事の範囲と成果物に従い、その都度、クライアントと協議して決めている
  4. 確認申請、法的対処
    敷地のある自治体に登録している建築家やエンジニアが確認申請を行う仕組みになっているため、プロジェクトごとに第三者に依頼している。クライアントが直接依頼するのが通例
  5. 体制
    自分以外に、建築家1人、コーディネーター1人、アシスタント1人の体制。他に、協力事務所とも連携する
  6. 今後の展開
    東京とムンバイを拠点とし、今後もインド国内における設計や建築・都市関連のリサーチ活動を行う

フィリピン・マニラ
NAP建築設計事務所 聖マリア大聖堂 マニラ
  1. 受注の経緯
    国際指名コンペ。リボンチャペル(広島県尾道市、2013年竣工)をきっかけに声が掛かった
  2. 契約
    AIA(米国建築家協会)のフォーマットなどを参考に、NAPと弁護士が共に契約書を作成。発注者はNAPインターナショナルと契約を結び、NAPインターナショナルがコンサルティングなどを行う。設計業務はNAP建築設計事務所の人材を活用
  3. 設計料規定
    必ず前払いを確認したうえで各段階の設計業務などに着手し、報酬の請求タイミングを細かく設定して、プロジェクトの中断や途中解約の際の精算が適切に行われるようにしている
  4. 確認申請、法的対処
    ローカルアーキテクトに依頼
  5. 体制
    基本設計とデザイン監修をNAP、実施設計をローカルアーキテクトが担う。ただし、プロジェクトのコンセプトに関わる詳細はNAPが指示を出す
  6. 今後の展開
    台湾など国外で3案件が進行中。台湾ではプロジェクトが長期にわたるため、現地事務所設置を検討中

台湾・台北
三菱地所設計 台北南山広場
  1. 受注の経緯
    台北市主催の事業コンペ。参加企業から声が掛かった
  2. 契約
    三菱地所設計のオリジナル契約書をベースにし、現地事情を配慮したうえで発注者と協議して決定。税金の支払いは、台湾側に設計者の支払い義務があるが、発注者が代行納付
  3. 設計料規定
    設計料の算定は同社基準で行い、設計業務の各段階で受け取る。設計の担当範囲は、都市設計、基本構想、基本設計、実施設計監修、オフィス・エントランス棟の内装設計、ライティングデザイン、サインデザイン
  4. 確認申請、法的対処
    ローカルアーキテクトが担当(都市設計審議については同社が一部サポート)
  5. 体制
    全体統括の下、主任設計者や設計担当、構造エンジニア、プロジェクトマネジャーまで社内で構成。照明デザインのみ外部に依頼。常駐せずに必要に応じて打ち合わせに赴く
  6. 今後の展開
    中国や台湾のほか、東南アジアでの受注を目指す

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