メディアポート
空港跡地を再生

 過密化の進む上海市内では、高度利用への関心が高く、複合開発が盛んだ。高度利用というと、高層部に目が行きがちだが、近年の上海市の大規模開発では、地下やペデストリアンデッキなどによる歩行者ネットワークが計画を特徴付けている。

 上海市内を縦断する黄浦江(こうほこう)の西側で、龍華空港跡地を中心とした旧工場街を再開発している「ウエストバンド(西岸)」もその1つだ。上海市が重要プロジェクトと位置付けている総面積9.4km²の大規模開発計画だ〔写真1〕。

〔写真1〕12街区を一体的に開発
メディアポートの工事風景。地下1階から2階は商業施設で、メディアポート内の2階レベルが全てデッキでつながる。歩行者は主に2階レベルでメディアポート内を移動し、1階レベルの歩車分離を徹底する(写真:蘇州海宣商業)
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メディア企業を集めて差別化

 ウエストバンド全体の開発エリアは黄浦江西岸11.4kmにわたり、アートを軸にしたブランディングを行っている。2010年の上海万博開催に合わせ、万博会場の対岸3.6kmほどは先行整備し〔図1、写真2〕、現在はそのさらに南側12街区を、「メディアポート」として一体開発している。日建設計が地元の上海建築設計研究院と組んでマスタープランを手掛けた。建築面積100万m2ほど。20年の完了を目指す〔図2〕。

〔図1〕上海市内を縦横無尽に走る地下鉄網
上海市内の地下鉄ネットワーク。2019年4月時点で17線が開通している。上海市内には3つの環状道路で囲まれたゾーニングがある。メディアポートは中心から2つ目のリング内にあり、ウエストバンドという大規模開発エリアの一部(資料:上海申通地鉄集団の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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〔写真2〕水辺の公共空間を整備
開発エリア東側の道路は護岸より6.5mかさ上げした。高い護岸壁を設けず、対岸への眺望を確保した。休日になると、ジョギングなどのために護岸を訪れる人が多い(写真:日経アーキテクチュア)
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〔図2〕地下鉄駅から川への連続性を計画
メディアポートのマスタープランイメージ。日建設計は、地下鉄駅から水辺へ向かう空間の方向性を重視しつつ、2階レベルのデッキなどにより街区全体の一体感を生む計画を提案した(資料:日建設計)
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 メディアポートのオフィス部分は、メディア、人工知能、航空サービスなどに関する企業を中心に入居が決まっている。日建設計の執行役員で、設計部門代表を務める陸鐘驍(ロウ ツォンショウ)氏は、入居企業の業種を絞る開発について、「上海市内における副都心間の差別化を図る狙いだ」と説明する。

街区をつなぐルールづくり

 12街区全体が2階レベルのデッキで、9街区が地下空間でつながり、地下鉄駅に直結する。地上の開発・設計は、複数の事業者が行うため、12街区全てに一体感を持たせるにはきめ細かいルールづくりが必要だった。マスタープランの段階で、スカイライン、建物のボリューム、動線などを設定し、設計から運営までのガイドラインを作成した〔図3~5、写真3〕。

〔図3〕マスタープランでスカイラインを設定
12街区全体が一体感を持って水辺に向かうようにスカイラインを設定した。メディアポートの中心部と黄浦江に近い建物の高さは低く抑える(資料:日建設計)
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〔図4〕駅から水辺の公共空間に人を誘導
メディアポートの配置図。街区は12に分かれ、中央の9街区(赤の濃い部分)は地下の一体空間でつながり、地下鉄龍尾路駅と直結する(資料:日建設計の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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〔図5〕地下とペデストリアンデッキでつながる立体都市
メディアポートの構成ダイヤグラム。2階のデッキ、1階と地下の商業空間が一体的に管理され、歩行者がメディアポート全体を自然に移動できる空間を目指す。地下2、3階の駐車場は9街区分の大空間で、効率的に運用する(資料:日建設計)
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〔写真3〕2020年完成に向けて工事が進む
建物外形が見え始めたメディアポートの様子。中央付近や川に近い建物は高さを低く抑えている。2019年3月撮影(写真:蘇州海宣商業)
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 特に苦労したのは、建物の配置や街区間の接続など、各権利者との調整だ。地下空間と2階デッキで全街区がつながる複雑な構成だが、権利や管理などの所在についてもガイドラインで整理している。

 地下駐車場は9街区のいずれにもアクセスできる。2階デッキは第二の地面として位置付け、歩行者ネットワークを確保する〔図6、7〕。

〔図6〕アーバンコアが歩行者の移動を活発化
地下3階からデッキまで垂直移動を促す「アーバンコア」(「中国の今を知る5つのキーワード」に関連記事)のイメージ。街区の結節点などに設置し、メディアポートのシンボルとなることを目指す(資料:日建設計)
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〔図7〕街区に縛られない一体開発
地下1階から2階デッキまでの連続空間のイメージ。地下空間と地上の共用部、デッキ部分はメディアポートの事業主である西岸開発集団が管理、運営する(資料:日建設計)
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 メディアポートの完成予定は20年だが、文化・アートの中心地としては、既に動き始めている。14年に開業した「西岸芸術中心」は、飛行機の格納庫をリノベーションした美術館だ。中国国内最大級のアートイベントのメイン会場でもある。ほかにも展示場や私設美術館などが集まる。メディアポートはこれらの美術館群やウエストバンドへ人の流れを加速させるだろう〔写真4〕。

〔写真4〕旧港湾施設を活用
メディアポートと黄浦江の間に立つ「上海油罐芸術中心」の一部。オイルタンクをリノベーションし、一部を新築建物でつないだ美術館だ。近隣には倉庫や航空機の格納庫をリノベーションした美術館が点在している(写真:日経アーキテクチュア)
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