効率良く「快適冷房」を実現できる選択肢の1つとされる全館空調。だが空調システムを入れればOKというものではなく、住宅の設計時点での対策いかんでその効果の成否は分かれる──。前真之准教授はそう指摘する。

(イラスト:ナカニシ ミエ)

 温暖化の影響なのか、盛夏の暑さは年々厳しさを増している。熱中症の多くは室内で起こっており、冷房を控える中で重症化する事態が多く発生している。特に高齢者を中心に、暑い室内でも冷房利用を避ける傾向が顕著であるが、その理由として「電気がもったいない」という節電意識とともに、「冷房をつけると不快」という快適性の問題が挙げられる。

 人体からの適度な放熱を維持し健康・快適な室内環境を確保するために、空気温度を下げる冷房は本来、不可欠なはず。今回は、「快適冷房」をかなえるとされる全館空調の実態と、落とし穴となる建物の断熱不足・空調設備の不備について解説する。

エアコン冷房が不快なワケ

 そもそも、なぜエアコン冷房はここまで嫌われてしまうのか。図1のサーモカメラの画像を使って、その不快感のメカニズムを見ていこう。

〔図1〕高断熱&全館空調は放射環境が適温で冷気流がなく快適
住宅の断熱と空調の効果の関連を示すサーモカメラの画像。左は低断熱&壁掛けエアコンの住宅。室内側の放射温度が非常に高いためにエアコンからの冷風が直接人体に当たり、強い不快感を引き起こす。右は高断熱&全館空調の住宅。部屋内側の放射温度が低く保たれ、冷気が人体に直接当たらないことから快適な冷房が可能となる(資料:前 真之)
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 左の画像は、低断熱な住宅の室内。高温な外気や日射熱により、室内内側の放射温度が非常に高温となっていることが分かる。この状態で壁掛けエアコンをONにすると、無理に急速冷却しようと冷気が盛大に体に吹き付けられる。人体は対流放熱により空気へ、放射放熱により周辺物体に放熱しているが、この環境では放射放熱がうまく機能せず冷気による対流放熱ばかりに偏り、放熱がアンバランスとなるため、不快が生じると考えられる。

 一方、高断熱な住宅で全館空調による24時間連続冷房を行うとどうか。右の画像のように室内内側の放射温度が適温に保たれ、空気温度をむやみに下げる必要がなくなることから、放射と対流の放熱バランスが改善される。

 また、送風ダクトで必要な分だけ冷気を各部屋に送り込むため、気流感も少ない快適な冷房が可能となるのだ。

 全館空調は快適だが、24時間連続冷房では電気代がとんでもなく高くなるのではないか。もっともな心配だが、解決のメドは立っている。

 Q8「エアコンを買い替えれば節電に?」(2019年9月26日号掲載)で述べたように、各部屋個別にエアコンを設置する一般的な住宅では、ほとんどの運転時間が超低負荷の低効率領域に集中し、ヒートポンプ本来の高効率を発揮できない。

 だが、エアコンのON/OFF運転をやめて24時間連続運転とし、かつ家中の負荷をまとめて1台の空調機で処理すれば、効率が最も高くなる「中間能力」の近辺に運転時間が集中する〔図2〕。

 24時間全館空調により、ヒートポンプの実力を発揮させることができれば、増加した熱負荷を少ない電力量で処理することが可能なのだ。

〔図2〕熱負荷を束ねてヒートポンプ効率のスイートスポットを活かす
24時間連続運転による全館空調で熱負荷が発生する時間帯のイメージ。家中の熱負荷をまとめることで最も効率が高い中間能力付近のスイートスポットを生かした省エネ運転が可能となる。各部屋で個別にエアコン冷房を行うと、ヒートポンプ本来の効率を生かせない(資料:前 真之)
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