「住宅の省エネ義務化」が国を挙げた規制として機能すれば、高性能な省エネ住宅が当たり前になり、コストダウンが進む。ひいては国民全体の健康や住環境の快適性向上につながると、前真之・東京大学准教授は説く。

(イラスト:ナカニシ ミエ)
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 前回に続き、「省エネ義務化は必要ない」と声高に主張する設計者のよくある言い訳について考えていく。

 1つ目は前回述べた「建て主が求めていない」。2つ目が「省エネは高くつく」。つまり「省エネ対応はコストアップ」になるので、「建て主が家を買えなくなる」という指摘だ。

 住宅を省エネ法に適合させるためには、設計1次エネルギー消費量を基準値以下に減らす文字通りの「省エネ」措置とともに、熱の逃げを防いで暖冷房負荷を減らす建物外皮の「断熱」が必要になる。

 設備の「省エネ」については、高効率機種のコストダウンが進んだおかげで達成は非常に簡単になった。現状すっかり安くなったLED照明やヒートポンプ給湯器などを普通に選んでおけば、建築物省エネ法の求める省エネレベルなど簡単にクリアしてしまう。なにしろそのレベルは、「2000年ごろの標準設備」を想定したものなのだから…。

 一方の「断熱」は、断熱材を厚くして窓も高断熱にする必要があるため、確かにいくらかコストがかかる。断熱強化によって暖冷房にかかる光熱費は減るには減るが、その低減効果は毎年1万~2万円程度と大したことがない。

 よって、回収期間・ペイバックタイムが数十年とえらく長くなってしまい〔図1〕、「コスパが悪いから義務化できない」というのである。

追加措置 追加コスト 光熱費の低減額 回収期間
大規模住宅 壁断熱厚さ 10㎜→40㎜
窓ガラス 単板→複層
22万円/戸 約1.1万/戸・年 20
中規模住宅 26万円/戸 約1.6万/戸・年 17
小規模住宅 壁断熱厚さ 35㎜→85㎜
窓ガラス 単板→複層
87万円/戸 約2.5万/戸・年 35
〔図1〕省エネ法適合の求める外皮断熱強化はペイしない?
省エネ基準に適合させるために必要な追加コストの試算例。外皮断熱の追加コストの割には光熱費の低減額が少ないので、回収期間が長過ぎるというのだが…(資料:国土交通省)

断熱は本当に「ペイしない」?

 だが、この「断熱がペイするまでには数十年かかる試算」には、各方面から批判が強い。そもそも比較元の断熱材が極薄ペラペラ。ガラスに至っては今どき「単板」。現状を目いっぱい低めに設定し、省エネ法適合の追加コストを「なるたけ高く」見積もろうとしているのでは、と批判されるのも当然だ。

 日本では、「暖房は限られた部屋と時間でつつましく」が一般的である。暖房コストがもともと安く抑えられているため、断熱強化しても暖房負荷低減の恩恵が少なく見えてしまう。

 しかし、逆にいえば、日本では「燃料費が我慢できる金額に収まるよう、暖房を限って暮らしている」ということ。熱がだだ漏れの低断熱低気密の家では、家中を暖めようとすると莫大な燃料費がかかる。結果、多くの部屋では暖房を諦めるしかない。

 最近になって、無暖房の寒さが「ヒートショック」や「低体温症」など大きな健康リスクをもたらすことが明らかになっている。しかし、低断熱低気密住宅ではなかなか打つ手がないのが実情だ。

 健康のためと家中を暖房すれば燃料費がずいぶんかかってしまうし、後から断熱強化を行うのはかなり割高につく。結局は寒くて不健康な環境に「泣き寝入り」しかないのだ。

 外皮性能を強引にでも引き上げる施策を打たなければ、エネルギー単価が上昇した途端に「燃料貧乏」「不健康」に転落しかねない住宅が、これからも延々と建て続けられてしまう。今までの不快で不健康な暖房の使い方を前提に、「断熱のコスパが悪い」と判断するのは、近視眼的に過ぎるのではないだろうか。

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