人口約7000人の滋賀県多賀町に、24の片流れ屋根が集落のように連なる中央公民館が開館した。家族以外の奉公人も同居する近江地方の商家を参考に、公民館の複数の機能を各屋根の下に収めた。

近江地方の商家を参照したプランで、住宅スケールの片流れ屋根が重なり合う。町産の木材を利用した木造建築。陸屋根部分の一部を耐火構造とし、1000m2ごとに防火壁を設けることで、耐火要件を避けて町産材の現しを可能にした。外壁も町産のスギ材(写真:吉田 誠)
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 「町の魅力をデザインに生かす提案」を求める形で、多賀町は2015年、中央公民館の公開設計コンペを実施し、大西麻貴+百田有希/o+h(東京都中央区)の案を選定した。

 「皆が『自分の場所だ』と思って訪れる場をイメージ。増築で複数の棟が連なる近江地方の商家を参照した」。大西麻貴氏は、小割りの空間が雁行してつながる案をこう説明する。「コンペではシンボリックではなく、日常の延長にあるような空間を評価してもらえた」と百田有希氏は加える。

 延べ2600m2の木造平屋の中に、300席のホール、貸会議室、児童室、調理室、障がい者就労支援の「杉の子作業所」などが混在する〔写真1〕。「旧館では貸室利用が中心で利用者が限られていたため、目的がなくても気軽に来られるように、たくさんの居場所をつくった」(大西氏)。エントランスホール脇の小上がりや和室の縁側、図書スペースなど、無料で利用できる共用空間を配す〔写真2〕。

〔写真1〕機能ごとの分棟配置で日常的なスケールに
こども広場を挟んで南側から見る。左から杉の子作業所、児童室、ささゆりホールなどが並ぶ。児童室の縁側からは、子どもを見守ることができる(写真:吉田 誠)
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〔写真2〕多様な居場所を連続させる
西側のギャラリーから、ささゆりホールがある東側を見通したところ。左手に見えるテーブルが置かれたエントランスホールや、図書スペース(右奥)、託児・乳児室(右手前の障子部分)などが一体的につながる。床はモルタル磨き仕上げの土間、スギ圧縮フローリングなどで変化を付けて空間を分節している(写真:吉田 誠)
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エントランスホールから、南側の児童室を望む。町産材でつくったエントランスの机と椅子はo+hがデザインした。児童室手前の図書スペースの家具は、地元の工務店によるもの(写真:吉田 誠)
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 コンクリートの土間やスギ圧縮フローリング、じゅうたんなど床仕上げに変化を付け、緩やかに空間を分節。屋根は最大10.92mスパンで、異なる方向の片流れにすることで高さに変化を付け、隙間のハイサイドライトから採光する〔写真3、4〕。

〔写真3〕屋根架構の向きを切り替えて採光
エントランスホールの北側から見る。機能ごとに分節した片流れの屋根架構を、 角度を90度振って配置することで、ハイサイドライトを設けている(写真:吉田 誠)
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〔写真4〕気軽に利用できる共用部
左手が中会議室で、奥に見えるのが小上がり。こうした予約制・有料の会議室以外に、 無料で利用できる集いの広場(写真右)などを設けた(写真:吉田 誠)
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建設過程で住民の意識変える

 町の森林資源の活用がコンペの与件の1つだった。「集成材を使わず、町産材を利用するためには課題がいろいろあった」(百田氏)。その1つが、山から運び出すときの材の長さの制限だ。そのため、梁は金物を用いて3本をつなげ、最大スパンを確保した。また、JAS(日本農林規格)の認定材を使うには、町外の製材工場に出す必要があるので、滋賀県立大学と共同で木材のヤング率の全数検査を行って対応した。

 また、町産材を利用した家具デザインを地元のつくり手と協働で進め、エントランスや図書スペースに家具を設置している。

 建設過程で町は公民館の運営を担う人づくりを目的に、町民や設計者、役場職員などが参加する「多賀語ろう会」を発足。月に1回、3年半にわたって勉強会などを開催した。

 ホールの利用方法をはじめ、建築に関する意見を聞くほか、多賀の伝統食を学ぶなど、自主的な学びの活動を展開。杉の子作業所のワークショップで描かれた絵をカーテン柄のモチーフとするなど、利用者との対話を空間化していった。

 「公民館を考えるプロセスで住民の意識が変わることがある。それを完成後の運営につなげることが重要だと実感した」と百田氏は話す。

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