近畿地方に深い爪痕を残した2018年9月の台風21号の襲来から約1年。大阪市内では、飛散した屋根材の直撃を受けて女性が死亡するなど、痛ましい事故が相次いだ。建築業界に詳しい気鋭の弁護士が、保険制度を活用した住宅所有者向けの対策を提案する。

辻岡 信也(つじおか しんや)
弁護士、一級建築士、東京都市大学工学部客員教授
辻岡 信也(つじおか しんや) 1973年大阪府生まれ。金沢大学工学部土木建設工学科を卒業後、98年に清水建設に入社。地中構造物の設計業務などに携わる。同社を退職後、京都大学法科大学院などを経て、2012年に弁護士登録。針原辻岡法律事務所を共同主宰。建築、住宅、土木、不動産に関連する事件のほか、歴史的建造物の保存問題などにも取り組む(写真:日経ホームビルダー)

辻岡さんは、近年の異常気象などにより、屋根材の飛散による人身事故のリスクが高まっていると、早くから指摘されてきましたね。

辻岡 ええ、以前から問題意識を持っていましたが「早く手を打たないと大変なことになる」と強い危機感を抱くようになったのは、2018年9月4日に関西地方を襲った台風21号からです。

 台風来襲の当日、大阪市内のマンションの8階に住む70代の女性が、飛散した屋根材の直撃を受けて死亡するという大変痛ましい事故が起こりました〔写真1〕。

〔写真1〕折板屋根が飛散し、150m離れたマンションの8階を直撃
屋根の飛散事故が起こった大阪市内のマンション。8階に住む70代の女性が屋根材の直撃を受けて亡くなった(写真:日経ホームビルダー)
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日経ホームビルダーの取材で、屋根材を飛散させたのは現場から約150m離れた3階建ての建物と判明。陸屋根の屋上に木製の支柱を立て、折板屋根を載せていた(写真:日経ホームビルダー)
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屋根は支柱と共に飛ばされ、被害マンションの8階に激突して路上に落下した(写真:日経ホームビルダー)
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 これは、現場から約150m離れた3階建ての建物の屋上から、折板屋根が飛散したことが原因のようです。陸屋根の屋上に木材の支柱を立て、その上に折板屋根を載せた構造です。屋根は躯体と連結されていなかったようで、非常に危険な構造と言わざるを得ません。

 こうした屋根の飛散事故を見て感じるのは、多くの建物所有者が屋根の飛散リスクを十分に認識していないことです。これは企業も個人も同じですが、特に戸建て住宅では屋根の安全性に関心を持つ人が少ないと思います。自分の車が他人を傷付ける心配はしても、まさか自宅の屋根が人を傷付けるとは思わない。

 しかし、仮に飛散屋根による事故が起これば、屋根を飛散させた住宅の所有者が賠償責任を負うことになります。人命に関わるようなことになれば取り返しが付きませんし、その賠償額も大変な金額になります。まずは、これまでの認識を改めてもらい、適切なメンテナンスをして飛散事故の防止に努めてもらうことが先決です。

屋根の飛散事故で他人に被害が及んだ場合、建物所有者にはどのような法的責任が生じますか。

辻岡 民法717条で定められている工作物責任です。

 工作物の瑕疵(かし)によって他人に損害が生じたとき、まずは工作物の「占有者」(賃借人も含む)の賠償責任が問われます。ただし、これは過失責任なので、通常の注意義務を払っていれば責任を問われません。

 占有者が賠償責任を免れると、今度は「所有者」がその責任を負うことになります。こちらは無過失責任で、故意・過失の有無に関係なく責任を負います。つまり、所有者の方が重い責任を負うのです。従って、戸建て住宅や賃貸アパートで屋根の飛散による人身事故が起これば、真っ先に所有者の責任が問われると思います。

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