ホットスタンプに対抗する次世代冷間プレス材の開発が進む。1.5GPa級の引っ張り強さと、590MPa級の成形性を両立するのが狙いだ。日本の鉄鋼メーカー3社は既に基礎研究を終え、量産技術の開発を急ぐ。実用化には「水素脆化」という高強度材特有の課題を解決する必要もある。

 日本の鉄鋼メーカーの次世代高張力鋼板の開発が新たな段階に入った。各社の開発目標は同鋼板の冷間プレス材において、1.5GPa以上の引っ張り強さと20%の伸び(延性、成形性の指標の1つ)を両立することである。20%という伸びは、590MPa級の冷間プレス材の値に相当し、1.5GPa級の冷間プレス材の約3倍に達する(図1)。

図1 次世代高張力鋼板の開発目標
1.5GPa級の引っ張り強さと590MPa級の成形性(伸び)の両立を目指す。ISMAの資料を基に日経Automotiveが作成。
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 日本製鉄(旧新日鉄住金)など鉄鋼大手3社は2018年度末までに、基礎研究において目標を達成し、2019年度から量産技術を開発する注1)。世界の燃費規制が厳しくなる2022年以降に、自動車のボディー骨格への採用を目指す。

注1)鉄鋼メーカー3社は、新構造材料技術研究組合(ISMA)が主導する国家プロジェクトの一環で基礎研究を行ってきた。同プロジェクトにおいて1.5GPa級の強度と20%の伸びを両立する目標を達成した。2019年度からは国家プロジェクトではなく、各社が独自で量産技術の開発を行っている。

 現在、量産車のボディー骨格には、高強度の高張力鋼板が多用されている。ボディー骨格用の高張力鋼板には、冷間プレス材とホットスタンプがあるが、現在実用化されている冷間プレス材としては、1.3GPa級が最高強度である。

 一方、1.3GPa級以上の強度が求められるボディー骨格では、ホットスタンプの採用が増えている。また、1.5GPa級のホットスタンプは、車両価格が安い軽自動車への採用も進む(図2)。ダイハツ工業の新型軽自動車「タント」やホンダの新型商用バン「N-VAN」は、スライドドアの垂直方向のフレームに1.5GPa級のホットスタンプを使う注2)

図2 新型「タント」のドア骨格
黄色のフレーム部分に1.5GPa級のホットスタンプを使った。(撮影:日経Automotive)
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注2)スライドドアを採用した軽自動車では、開口部を広くして乗り降りしやすくするため、センターピラーをなくす場合がある。ただ、同ピラーをなくすと側面衝突に対する安全性が低下するため、タントやN-VANではドアのフレームに高強度の高張力鋼板を使い、センターピラーの役割を代替させている。

1.5GPa級のホットスタンプに対抗

 高張力鋼板の冷間プレス材は強度が上がるほど、伸びが少なくなって成形性が悪くなる。センターピラーなどの複雑な形状の部品を1.3GPa級以上の冷間プレス材で造るのは、現時点では難しい。

 そのため、複雑形状の部品を1.3GPa級以上の高張力鋼板で造る場合にはホットスタンプを使う。ホットスタンプで部品を造るには、素材を加熱して軟らかくし、高温でプレス成形(熱間プレス成形)した後に急冷して強度を高める。高温で成形するため、複雑形状のボディー骨格部品を造りやすい。

 ただ、ホットスタンプで部品を造るには、加熱炉などの新たな設備が必要になる。部品ごとに加熱・急冷を行うため電力代がかかることもあり、冷間プレス材を使う場合に比べて製造コストが増える問題がある。

 1.5GPa級の強度と590MPa級と同等の成形性を冷間プレス材で両立できれば、通常のプレス成形機を使って高強度のボディー骨格部品を低コストで造れる。鉄鋼メーカー3社は、「高強度で加工しやすい冷間プレス材に対する自動車メーカーのニーズは大きい」と見て、量産技術の開発を急いでいる。

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