2016年発売の5代目「インプレッサ」の開発は、社運を賭けたと言えるプロジェクトだ(図1)。車種数の少ないSUBARU(スバル)で、全面改良の位置付けは大手他社に比べて大きい。しかもプラットフォーム(PF)の刷新を兼ねた。その出来映えが、今後のスバル車の行方まで左右する。開発予算は、通常の全面改良を大きく上回る規模だ。

図1 インプレッサの外観
2016年10月に発売した。写真は5ドアハッチバックの「インプレッサスポーツ」。「2016-2017日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。スバルの受賞は、2003年の4代目「レガシィ」以来13年ぶり。
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 2012年に開発責任者(プロジェクトゼネラルマネージャー:PGM)になった阿部一博は、重圧に押しつぶされそうになる。2014年に新PFを使った試作車を開発した後、えも言われぬ恐怖に襲われた。

 やばい。売れなかったらどうしよう。どうやって逃げよう。

 試作車を測定した数字を見ると、ちゃんといいところにある。OKとなるはずなんです。でも、なにか十分じゃない。あれ? このまま行くとやばいかも。

 最後の最後にならないと、クルマの本当の出来映えは分からないですよ。途中段階の試作車でこんなにいい性能になるでしょ、すごいでしょとエンジニアは目を輝かせて言うわけです。でも信じられないんです。そうじゃないかもしれない。

 試作車は汚いし音はうるさい。それでもステアリングの「この感じ」を感じてくださいとエンジニアは言います。運転感覚が鋭い人が多いですから。でもお客さまが本当に感じられるのか。音は後で消せるので、ないものと考えてくださいと。「絶対に大丈夫です」と。いやいやいや。自分の感覚はそうじゃない。本当は違うんじゃないのか。

 スバルみたいな小さな会社で、PFの刷新と車両の全面改良を同時にやる。会社をつぶすくらいの投資規模です。外したら終わり。これほど金を使って、これでいいのか。もう手はないのか。不安で不安でしようがなかった。

阿部一博( あべ・かずひろ)
1990年富士重工業(現SUBARU)入社。車体構造設計を担当。1994年Subaru Research& Design(米国)。1998年商品企画本部。3代目「レガシィ」「トライベッカ」、4代目と5代目「インプレッサ」に携わる。現在は「BRZ」を担当。趣味はランニング。愛車はBRZ。(写真:加藤 康)
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