世界で最も販売台数が多い車種である「カローラ」シリーズ(以下、カローラ)。小西良樹が開発責任者になることを告げられたのは、2015年のことだ。折しもドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)が、ディーゼルエンジンで排ガス不正問題を起こした時期と重なる。最大のライバルである「ゴルフ」などに搭載するディーゼルの問題で、業界に激震が走っていた。

 2018年6月に発売したカローラスポーツのパワートレーンは、排気量1.8Lガソリンエンジンを搭載したハイブリッド、1.2Lの過給ガソリンエンジン(図1)。同年内に発売予定のカローラ欧州版である「オーリス」には、新開発の2.0Lハイブリッドを採用する。小西は悩んだ末に、世界中で販売するカローラでディーゼルエンジンを外す決断を下した。

図1 カローラのハッチバック仕様であるスポーツ
2018年6月に発売した。米国ではカローラハッチバック、欧州ではオーリスの名称で販売する。セダンとワゴンについては、後ほど発売する予定である。(写真:宮原一郎)
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 ハイブリッドで戦っていくのか。それとも過給(ガソリン)エンジンか。

 カローラの企画を考え始めた頃、欧州車に対抗できるディーゼルエンジンの搭載を考えていました。先代にありますので。ただ2015年に欧州でディーゼル車の問題が起きて、欧州の排ガス規制はがつんと厳しくなります。カローラのディーゼル車をどうすればいいのか。どちらに行けばいいのか。

 パワートレーンの見直しは、トヨタ全体の今後の戦い方に関わります。役員を含めて喧喧囂囂(けんけんごうごう)の議論。ただしカローラにディーゼルを載せるのか載せないのかを最終的に決めるのは、開発責任者の私です。

小西良樹(こにし・よしき)
1967年生まれ。愛知県出身。1991年名工大院修了後、トヨタ自動車入社。ボデー設計部で、「セリカ」などを担当。2005年製品企画室。2009年に商品統括部でTNGAプラットフォームの開発責任者。2015年に製品企画室に戻り、カローラシリーズのチーフエンジニア。趣味は旅行、写真、釣り、映画鑑賞。 (写真:宮原一郎)

 悩みました。最終的に、世界中のどの地域にもディーゼルを使わないと決めました。開発が進んでいた新しい2.0Lハイブリッドの動力性能は高い。ディーゼル車と十分に戦えると判断しました。

 国内で発売したカローラスポーツに2.0Lハイブリッドの設定はありません。ただ私としては、(国内に)ぜひ導入したいと思っています。

 カローラの世界販売台数は約121万台に達する。日本に加えて、中国や北米、欧州など世界中で販売するグローバルカーだ。Cセグメントの激戦区に位置する車両で、世界各社が主力車種を投入する。

 競合車種はとても多い。いろいろ乗りました。中でも意識した5車種が、ゴルフ(VW)、208(プジョー)、シビック(ホンダ)、アクセラ(マツダ)、インプレッサ(スバル)でしょうか。

 どのクルマにも素晴らしい点が多くて、追いつけ追い越せの開発です。例えばゴルフは、雪道でとても安心して走れる。なかなか追いつけません。日々、どう追いつくのか考えていました。

 シビックのクイックなステアリングは、若者の評価がとても高い。カローラにもそんな乗り味を入れられないか。他車の良いところでカローラにも入れたい要素は、いろいろ採り入れました。全ての点で勝てるとはもちろん言いませんが、ベストを尽くしました。

 小西が開発で特にこだわったのが、ボンネット(フード)の搭載位置を下げることである。トヨタ車で同サイズの車両に比べて、100mm下げた。フードの下には、エンジンやインバーターなど多くの主要部品が入る。これほど下げるのは、通常の全面改良では無理だ。

 先代は、言葉を選ばずにいうと、ずんぐりむっくりです。シャープなクルマに変えたかった。

 ただフードをこれほど下げるには、主要部品を1/3程度は小さくしないといけない。通常の全面改良では、各部品担当者は(1車種のために)そんなのやっていられないとなります。

 なぜできたのか。カローラには、「プリウス」(2015年発売)から採用した新しいプラットフォーム(PF)を採用しました。TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の考えに基づいたものです。

 実は新PFを造るときに、フードを下げるための仕込みをしていました。カローラの開発に入る前、私はTNGAのPF開発担当だったんです。当時はカローラの責任者になるとは思っていなかったですけれどね(笑)。PFの刷新であれば、部品の大幅改良に手をつけられます。それでも実現に3年かかりました。

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