日産自動車は2019年10月、少量生産に対応可能な車両ボディーパネルの成形技術「対向式ダイレス成形」を発表した。2台のロボットを使ってパネルの表裏から工具を当てて鋼板を変形させる方法で、金型なしで成形できる(図1)。同技術は月産100枚程度までの少量生産品であれば対応可能で、初期コストは数十万円と金型を使った場合よりも1~2桁低く済み、生産開始までのリードタイムも格段に短くなる()。旧型車の顧客向けに補修部品などを販売する事業で使用するほか、将来は、少量生産のスポーツカー向けボディーパネルの成形技術としての活用を狙う。

図1 対向式ダイレス成形技術でボディーパネルを成形するロボット
ロボットに専用の工具を取り付けて、ボディーパネルの両側から作業する。(撮影:日経Automotive)
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表 パネルの成形方法の比較
パネルの生産が月に100枚程度までなら、リードタイムの短さや初期コストなどの点で対向式ダイレス成形が有利だ。日産自動車の資料を基に日経Automotiveが作成。
対向式ダイレス成形
(インクリメンタル成形)
プレス成形・一般型 プレス成形・試作型
(ZAS)
板金加工
金型 不要
(部品測定データで製作可能)
必要
(型データを使用)
必要
(型データを使用)
不要
(部品測定データで製作可能)
リードタイム 3日~4週間 約1年 1~1.5カ月 1週間
費用
(初期コスト)
数十万円~100万円程度
(治具+データ作成費)
数千万円
(型費)
数百万円
(型費)
数十万円
(治具費)
工法
(使用設備、作業主体)
多関節ロボット プレス機 プレス機 熟練技能者による手作業
能力(生産性) 100枚/月未満 1000~1万台/月 約1000台未満/ライフ 7枚/人月

 日産が開発した対向式ダイレス成形は、棒状の工具でパネルを徐々に変形させて成形する「インクリメンタル成形」の一種。アームの先端に工具を取り付けたロボットを2台、対面するように設置。その間に成形する鋼板を配置し、両面から挟み込むように工具を当てる。

 インクリメンタル成形としては従来、大学や企業での開発・実用化が進められているが、工具をパネルの片方(表面)から当てる方法が主流。精度を高めるために、裏面にだけ型を配置する方法もある。ただし、表面方向に凸となる形状を成形できなかった。

 これらに対して日産の方法は、パネルの両面から工具を当てるため、表面方向の凸形状の成形ができる上、型を用意する必要がない。ただし、2本の工具の相対的な位置関係を高精度に制御する必要があり、目的の形状を成形するための加工経路を算出するのも難しい。これらを解決するため同社の生産技術研究開発センターと総合研究所が共同で研究した。実現まで5年かかったという。

 実際の工程では、パネルの全面に対向式ダイレス成形を適用するのでは効率が悪い。そこで日産は片側から工具を当てる方法や片側にだけ型を用意する方法を含めた3つのインクリメンタル工法を使い分けている。

 具体的には、まずパネル全体の大まかな成形では、1台のロボットで1方向から工具を当てる。ここでは金型を使用しない。次に、詳細なエンボス形状などを成形する際は、2台のロボットが両面から工具を当てて成形する。この時、金型は使用しない。最後に、細くて深い溝などを高精度に成形する場合は、片面に型を配置し、逆側から工具で押し付けるように成形する。

 なお、穴あけや部品輪郭の切断にはレーザー加工機を使用する。残留応力によるスプリングバックや板厚減少などは少なからず生じるが、成形条件や工具経路の最適化などによってこれらを解決すべく研究を進めている。

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