市販車で世界最強・最速のエンジンといえば、日産自動車「GT-R」に搭載された「VR38 DETT」であることに異論を挟む余地はないだろう。2019年6月に発売されたGT-Rの「50th Anniversary」を雨の横浜で試乗すると、アクセルを半分程度踏み込んだ瞬間に、1900rpmくらいから始まるリニアな加速感と操舵にフィットしたドライバーとの一体感に心が弾んだ(図1)。

図1 日産「GT-R」50周年記念モデル
(撮影:日経 xTECH)
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 市街地のウェット路でも安心して小気味よく運転できる。6速DCT(2系統クラッチ変速機)は本当に絶妙のタイミングでつないでくれて、VR38 DETTエンジンとクルマ全体の融合を体感できた(図2)。

図2 VR38 DETTの外観
(写真:日産)
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 このVR38 DETTの市場投入は2007年。V型6気筒エンジンで、市販車用にしては珍しく、車両とともにほぼ毎年改良している。リソースと開発期間からみて、通常は考えられない頻度だ。日産の象徴たるGT-Rへのこだわりだろう。

 当初は357kW(480馬力)だった出力が、2014年にはGT-Rのニスモ(NISMO)版で441kW(600馬力)まで急増。NISMO以外でも570馬力に達し、量産6気筒エンジンで、世界最大級になった。

 さらなる馬力アップは、さすがに2020年モデルまで据え置くようだ。2015年にはニュルブルクリンクのラップタイムで、市販車として世界最速レベルを達成した。3.8Lの排気量では、これ以上の馬力アップを望まないかもしれない。

 公道を走る市販のスポーツカーとしてこれほどのパワーを持つことにばかばかしい気はもちろんするが、GT-Rのブランディングにはばっちり効くはずである。

 とはいえ、VR38 DETTを取り上げるのは、動力性能が抜きん出ているからではない。驚くべき生産方式を継続しているからだ。

 量産エンジンながら、わずか1人が手作業で1基のエンジン部品を全て組み付ける異例の生産方式を採用している。いわゆるラインと呼べるものはなく、もはや「工房」とでも呼んだほうがいい。

 ご存じのように、量産ラインではいかに早く安く組み付けるのかが肝心で、筆者の技術者人生において、量産エンジンを手で組み付けるなんていう発想は全くなかった。年間の生産が千台程度とはいえ、GT-Rがいかに特別で、日産を象徴していることがよく分かる。

 少し補足しておくと、手作業でエンジンを組み付ける例がないわけではない。筆者の知る限りでは、2010~2012年の25カ月間に500台限定で生産したレクサス「LFA」がある。

 ヤマハ発動機製のガソリンエンジン「1LR-GUE」は、1人の作業者が1日1基のペースで手作業で部品を組み付けていた。ただ500台で終了。これを量産エンジンと呼んでVR38 DETTと比べるのは、さすがに失礼だろう。

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