ヘルスケア・データサイエンティスト

2019/03/05 06:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス

 患者の治療計画などに役立てるために電子カルテなどの医療情報を正しく解析する人材のこと。

 遺伝子情報などを用いた個別化医療の臨床応用が進む中、医療データの有効活用が重視されている。個人のデータを分析し、「この患者にはこの薬が有効」といったことが分かれば、適切な治療法や医薬品を提案することができる。今後、膨大なデータが蓄積されている医療情報を正しく活用するために、「ヘルスケア・データサイエンティストの人材育成が必須だ」と京都大学医学部付属病院 医療情報企画部長 教授の黒田知宏氏は考えている(関連記事)。

(出所:PIXTA)

 ヘルスケア・データサイエンティストは、3つの役割を担う人材から成ると京都大学大学院医学研究科 医学統計生物情報学 教授の森田智視氏はみる。すなわち、(1)電子カルテなどの医療情報の中から必要なデータを引き出す人、(2)(1)で引き出されたデータからノイズを取り除いて解析しやすい形にする人、(3)データを解析する人、である。

 これまでは医師自らが患者1人ひとりの電子カルテを確認し、必要なデータを引き出す作業を行っていた。医師が確認するため抽出の精度は高いが、医師の作業負担になっていた。近年は、検査画像やウエアラブル端末で測定できる日常のデータなど、1人の患者について膨大な情報が蓄積されているため、医師が1人で対応するのが難しくなっている。

 森田氏は、特に「医療情報のことを理解しながら解析手法についても理解できる(2)の人材がキーパーソン」と強調する。ノイズだらけのデータをいくら解析しても良い結果は得られないからだ。医療データに含まれるノイズとは、例えば電子カルテでは同じ内容でも医師によっては違う言葉で記載する場合がある。ある医師は「A」と書くものを、別の医師は「A’」と書いたりするのだ。医療情報を理解している人が見れば、AとA’はほぼ同義と分かった上でデータを取り扱える。だが、医療情報が分からない人がデータを抽出すると、AとA’を別のものとして扱ってしまう可能性がある。

 この他、検査結果の数値に関しても、医療情報を理解している人ならその数値の持つ意味や結果の信用性を読み取れる。こうした理由から、医療情報ならではの取り扱いの難しさに対応できる(2)の人材が特に求められているというわけだ。

 こうした現状を受けて、京都大学はヘルスケア・データサイエンティストの育成に乗り出した。「データ科学イノベーション教育研究センター」や「臨床統計家育成コース」を設置し、データサイエンティストの育成を進めている。2019年10月には「社会変革型データサイエンティスト教育プログラム」を新たに始める計画だ。主な狙いは(2)の人材を育成することである。

 育成したヘルスケア・データサイエンティストには、医療情報を分析して新たな診断アプローチを提案したり、ライフログを分析して予防・早期発見につながる兆候を発見したりする業務での活躍を想定する。