“AIは万能”は誤解

 例えば、あべのハルカスは、強い揺れの地震をもたらす上町断層帯の上に建つ。大阪平野特有の強い西風も吹く立地だ。設計段階では、地震や強風の影響を考慮して様々な建物形状が考え抜かれた。

 「AIによって徹底的にリスクが検証されていれば、これまでにない形状でも不安なく実現に向けてチャレンジできる。AIは、人間にしかできない価値の創造をサポートできる技術だ。モデリングや解析、断面設計といった一連の構造検証を速く、繰り返して連続実行できることにメリットがある」と九嶋副部長。AIと構造計算ソフトを連動させることで推定や解析をスムーズに実施でき、構造の詳細検討が可能になると言う。

 AIの活用と普及を図るうえでの課題についても両者は言及。「建築界の中には“AIは万能”といった大きな誤解がある。いい設計をするための手段であり、“道具”にすぎない。使いどころが大事だ」(九嶋副部長)

 これに対して山梨常務は、「AIを使うとその分、人間が“経験する”機会が減ってしまうという見方をする人もいる。しかし、将棋や囲碁の世界でも過去の定石や棋譜をコンピューターで解析し、自らの戦法に生かす棋士が出てきた。建築の世界でもそういう環境から新たなタイプの設計者が生まれるのではないか」と期待する。

日建設計設計部門プリンシパルの山梨知彦常務執行役員と竹中工務店設計本部構造設計システムグループの九嶋壮一郎副部長のパネルディスカッション。モデレーターは日経 xTECH/日経アーキテクチュア編集長の宮沢洋が務めた(写真:菊池 一郎)
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 AI活用で今後必要なのは誰でも容易に扱えるインターフェースだ、という点で両者の意見は一致した。「AIをワンクリックで使いこなせる環境づくりを目指す」と九嶋副部長は言う。

 「クリエイティビティーを発揮するには“道具”が重要。技術の革新によって人間も変わっていく。AIが進化しても人間はその上を超えていくはずだ。人間の可能性を信じるべきだ」。AI活用の今後の展開について山梨常務はこのように語った。