「オンライン診療は未来あるものだ」、4人の専門家が議論

2019/10/11 06:00
近藤 寿成=スプール

 将来的に、幅広い疾患で日常的にオンライン診療が利用される――。「クロスヘルス EXPO 2019」(主催:日経BP社、後援:厚生労働省/経済産業省/日本医師会)の2019年10月9日のシアターセッションでは、「進化する『オンライン診療』」と題したパネルディスカッションが開催された。

 パネリストとしてインテグリティ・ヘルスケア 代表取締役社長の園田愛氏、MICIN 代表取締役CEO/医師の原聖吾氏、メドレー 執行役員/医師 CLINICS事業部 事業部長の島佑介氏の3人が登壇し、厚生労働省 医政局総務課 保健医療技術調整官の堀岡伸彦氏がモデレーターを担当。それぞれの事業内容を紹介するとともに、オンライン診療の現状や未来像などについて語った。

満席となったパネルディスカッションの様子
(写真:スプール)
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 まずは堀岡氏から、オンライン診療にまつわるガイドラインの変遷についての説明があった。そもそも、医師法の第20条(無診察治療等の禁止)では「医師は、自ら診察しないで治療をしてはならない」と明記されている。ただし、“診察”の定義として「対面で、目の前に患者がいなければならない」とは書かれていないため、どこまでを診察とするのかが、ポイントになっていた。

 それを踏まえたうえで、1997年に最初の大きな変革となったのが、離島やへき地の患者などを遠隔診療の対象として例示した「情報通信機器を用いた診察の明確化(厚生労働省健康政策局長通知)」である。さらに、スマホの登場とともに2015年以降は「毎年通知が出されたが、2018年にはついにオンライン診療のガイドラインが発表され、毎年見直されることになった」(堀岡氏)。なお、ガイドラインでは概念を「オンライン診療」「オンライン受診勧奨」「遠隔健康医療相談」の3つに分類し、オンライン診療とオンライン受診勧奨の一部を適用範囲に指定している。

厚生労働省 医政局総務課 保健医療技術調整官の堀岡伸彦氏
(写真:スプール)
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 これに合わせて新設されたのが「オンライン診療料」である。オンライン診療料の算定要件や算定可能な患者が、やや厳しめに設定されているという声があるものの、診療報酬が位置付けられて議論する対象ができたという側面もある。

 2019年のガイドラインの改定では、提供体制として患者のそばに看護師が付き添い、医師がオンラインで看護師に指示を出す「D to P with N」が明確化された。さらに、対面診療の原則についても現実に即した形に緩和されたほか、条件は厳しいものの、緊急避妊薬も初診対面診療の例外として解禁された。また、不適切なオンライン診療の報告が複数あることから、2020年4月以降、オンライン診療を実施する医師は、厚生労働省が定める研修の受講が必須となる。

オンライン診療の新しい有用性

 次に、パネリストの3人から、オンライン診療に関連するそれぞれの事業概要が紹介された。園田氏のインテグリティ・ヘルスケアでは、オンラインによる疾患管理ソリューション「YaDoc」を提供している。同社は当初から「コミュニケーション」「アクセシビリティ」「治療アドヒアランス」の3つを問題意識に掲げており、「それを解決する効果がオンライン診療にはある」と考えてYaDocを生み出したそうだ。

インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役社長の園田愛氏
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 YaDocの機能には、「モニタリング」「食事記録」「問診」「コミュニケーション」などがある。現在、2000以上の施設に導入されており、特に臨床で利用するEHRと連携することで「医師が治療中に見るインターフェースとして普及している」(園田氏)。例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の場合では、YaDocが搭載する「CAT」および「mMRC」で患者の症状の変化を把握し、状況によって医師の治療や処方行動が変わるという事例があった。このように、患者の状態を把握することで、医師の介入方法や患者の行動に変化が生まれるということは、「オンライン診療の新しい有用性だ」と園田氏は訴える。

 園田氏によれば、オンライン診療には「アクセシビリティの改善」「医療データの集積」「データに基づく医療の高度化」というステップがあり、現状でも医療プロセスのICT化は始まっているという。そういったなかで、2019年からはそのデータを利活用するような動きにシフトしていくことから、園田氏は「オンライン診療とともに、インテグリティ・ヘルスケアは発展していく」と意気込みを語った。

希少疾患の患者と親和性が高い

 原氏のMICINは「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を」をビジョンに掲げ、2つの事業を展開。1つはAIなどを活用したデータソリューション事業、そしてもう1つがオンライン診療サービス「クロン」などのアプリケーション事業となる。クロンでは、予約から診察、薬の配達までをオンラインで完結する仕組みを、医療機関に提供している。

MICIN 代表取締役CEO/医師の原聖吾氏
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 原氏はクロンのメリットとして、「通院の物理的・心理的負担の軽減」「治療の継続率をUP」「機器連携でデータを医師と共有」の3つを挙げる。また、利用する約1500の医療機関のうち約6割を都心部が占めているほか、利用する患者層も20~50歳が85%を占めていることから、「都市部に住む働く世代が、オンライン診療を活用している傾向がある」と分析する。

 クロンの活用事例としては、D to P with Nの領域でのオンライン診療活用を検証する取り組みを栃木県医師会やエンブレース社とともに開始したほか、内閣府の「サンドボックス制度」認定に合わせてインフルエンザの受診勧奨の取り組みも始まっている。さらに、小規模なクリニックのみならず大病院での活用も広がっており、希少疾患の患者向けに聖マリアンナ医科大学病院とオンライン診療を開始。希少疾患は専門医が少ないことから、患者は遠方から通院しているケースもあり、通院に必要な時間や交通費などの面で「希少疾患の患者とオンライン診療は親和性が高い」と原氏は見ている。

患者の医療体験の向上も

 島氏のメドレーは、日本最大級となる医療介護の求人サイト「Job Medley」から事業をスタート。その後、医師たちが作るオンライン医療事典「MEDLEY」、クラウド診療支援システム「CLINICS」、口コミで探せる介護施設の検索サイト「介護のほんね」を新たな事業として展開している。

メドレー 執行役員/医師 CLINICS事業部 事業部長の島佑介氏
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 CLINICSは、「オンライン診療」「カルテ」「予約」の機能をクラウドサービスとして提供している点が特徴だ。基幹となるのは「カルテ」で、これまで院内で完結していたさまざまな医療情報を「患者に還元するシステムの一環として、オンライン診療が生まれた」と島氏は説明する。さらに、現状でスマホ用アプリは「オンライン診療アプリ」となっているが、将来的には患者の通院を総合的にサポートする「通院アプリ」に変えていく構想もあることを補足した。

 また、医療機関の業務を一気通貫で完結したり、患者情報の2重登録などを解消したりする「シームレスな連携」と、国際標準規格などを取得した「安心のセキュリティ」も特徴として挙げられる。オンライン診療は3年間で約5万回の実績を積み上げており、それらも「大きな強みになる」と島氏は考えている。

 CLINICSが将来的に目指すのは、「患者のすべてのデータを活用し、病院側が最適なマーケティングや採用まで可能になるようなシステム」(島氏)の構築である。さらに、現時点では“点”の診察を、さまざまな情報を利用することで“線”や“面”の診察に変えられるような世界も、理想像としてあるそうだ。そのほか、オンライン診療だけでなく患者の医療体験の向上も目指しており、「電子処方箋に関する基礎研究などにも取り組んでいる」と付け加えた。

オンライン診療のあるべき姿とは

 後半のパネルディスカッションでは、堀岡氏がまず「技術やデバイスが飛躍的に進化した先に訪れるオンライン診療の未来像と、その実現のための課題」をそれぞれに聞いた。原氏は「幅広い疾患で、日常的にオンライン診療が利用されるようになる」という未来像を思い描いており、そのためには「2つの要素が重要になる」と語る。1つは、増加するデータに対して「どのタイミングで医師や患者にアラートを出すべきか」ということ。これはサービスを提供する事業者側が解決すべきポイントで、「さまざまな医療データを解析し、そのタイミングを見いだしていくことになる」(原氏)。もう1つは「制度」の部分。診療報酬の適用範囲はまだまだ厳しいので「改善されるべき」であるほか、疾患の制限についても「とくに制限することなく、医師の裁量に任せるべきではないか」と提案した。

 この提案については島氏も同意見で、すべての患者がレントゲンを撮られたり、医師から触診を受けたりするわけでもないことから、「コミュニケーションで解決される診療に関しては、幅広くオンライン診療を適用してもいいのではないか」と補足した。また、レントゲンやエコーなどの大型デバイスは病院に行かなければ利用できないが、尿酸値や眼圧の計測、あるいは採血などであれば「自宅での対応も、将来的には不可能ではない」ので、それが実現できればオンライン診療との併用も「議論する価値はある」との考えを示した。

 園田氏も、「オンライン診療の将来のあるべき姿には、大きな可能性がある」と感じているなかで、やはり「制度面での課題がボトルネックになる」と捉えている。しかし、ドラスチックな新しい医療の形をいきなり広めることに対しては懸念を感じており、小さく始めて大きく育てるという政府の方向性には一定の理解を示した。

 一方で、園田氏自身が現場で感じている課題としてあるのが、デジタルデバイスに対する「患者のハードルの高さ」だ。さらに、デバイスで収集したデータやオンライン診療自体の信頼性についても「まだエビデンスがあまり示されていない」ことから、臨床現場などに「その有用性をしっかり示していくことが必要になる」と語った。

不正利用をどう防ぐか

 次に堀岡氏は、原氏と島氏に「オンライン診療の不正利用」に対する意見を求めた。これは、少数の医師がオンラインを利用し、対面診療なしに特定の薬を販売しているケースが少なからずあり、それがガイドラインの縛りを強めている側面もあるからだ。

 原氏は、事業者側が「注意喚起を促したり、場合によってはシステムの提供を停止したりするような取り組みも必要だろう」と考えており、自社でも医療機関とのコミュニケーションを高めるようにしているという。あわせて、患者などの利用者に対しても「認知を広めることが重要になる」という見解だ。

 オンラインはもうけ重視の少数派にとっては相性が良く、そこがクローズアップされやすいことから、島氏も原氏が挙げた意見には賛同する。そのうえで、この問題の本質は「医師が不正に薬を販売する」ことであり、必ずしも「オンラインに原因があるわけではない」ことから、その点は「しっかり切り分けて考えるべきだ」と指摘する。これは現実問題として、事業者側が医師に対して「オンライン診療をどう使うか」まで介入することは難しいという背景もあるからだ。

 しかし、そういった医師が出てきていることは事実であり、それがオンライン診療の未来を阻害する要因になっている以上、島氏としては厚生労働省のガイドラインにのっとった「独自のガイドラインを作り、システムを利用する医師に順守してもらうようにしている」と、自社の取り組みにも触れた。

 最後に堀岡氏は、「オンライン診療は未来あるものだ」と述べ、オンラインによる遠隔手術などへの期待感も示した。さらに、厚生労働省としては技術やデバイスの進歩に対して足を引っ張らないように取り組み、オンライン診療の明るい未来を「事業者とともに作っていきたい」と締めくくった。

■変更履歴
当初、4ページ目で「オンライン医療辞典」と記載していましたが、正しくは「オンライン医療事典」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2019/10/11 11:50]

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