「正しい医療機器開発」を大学が支援、その試みから得た知見とは

2019/10/07 05:00
庄子 育子=Beyond Health
出典: ,日経メディカルOnline 2019年10月3日 , (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 医療・健康分野で「欲しかった」と言われる価値を創り出す――。そんなコンセプトの下、東北大学病院では2014年から企業や研究者を医療現場に受け入れ、現場の観察をもとに「事業化に資する」課題の探索から開発研究を支援するプログラム「アカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)」の提供を開始した。医療現場と産業従事者の交流により新たなイノベーションを生み出すユニークな取り組みだ。このプロジェクトを進める同大特任教授の中川敦寛氏に、ASUに込めた思いなどを聞いた。

東北大学病院臨床研究推進センター特任教授 中川 敦寛氏
(撮影:Beyond Health)
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 アカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)は東北大学病院で臨床研究推進センターバイオデザイン部門が窓口となって推進しているプログラムです。企業の方々に直接医療現場に入っていただき、現場観察を通して多くのニーズを探索し絞り込みを行いながら、開発ターゲットを見いだして、新たな医療機器や医薬品・システム・サービスなどの製品化、事業化を目指します。

 ASUは、次の三本柱から成り立っています。企業の方々に臨床現場をどっぷり観察いただきニーズを探索する「クリニカルイマージョン」、その上で医療者・研究者と議論を深めて真に価値あるものを見いだす「ブレインストーミング」、さらには開発・事業化を加速させるために学内外の医療関係者や研究者、関連企業、公的機関などとのつながりを支援する「ネットワーキング」です。それぞれのパートでは、さらに細かいプログラムが構築されています。

 ASUの取り組みを始めたきっかけは、あまり詳しくはお伝えできませんが、ある一部上場企業が、医療従事者なら「これはもうニーズがないぞ」と5秒で判断できるものを、数年かけて、しかも数億円かけてやっていた事実に衝撃を受けたことでした。ニーズの掘り起こしを誤ったり、たとえニーズが正しくても開発の方向性が間違ってしまったりすると、その間に費やしたお金や人の努力はすべて無駄になってしまいます。大学として、企業の方が正しい課題、事業化に資する良い課題を選択できるようになる場を提供すべきではないか、ということでASUプログラムを開始しました。

企業のニーズにも「松」「竹」「梅」が

 私たちの部門には、企業の方々が「ニーズ(臨床上必要なもの)だ」と言われるものが、様々な形で持ち込まれてきます。その数はおそらく年間5000から1万に上ります。けれど実際、我々が精査するのはその1%弱の100以下です。他は精査するに値しないのです。つまり、ニーズにも「松」「竹」「梅」があるわけです。事業化に資するニーズというのは「松」です。では、どういったものが「松」であり、どうすれば「松」を見つけられるのか、そしてそれをどう育てられるかを我々は指導しています。

 そもそもASUは、医療現場にコマーシャリズム(商業主義)を持ち込んだ取り組みでもあります。企業の受け入れや事業化に向けての学術指導契約や共同研究契約に当たっては対価を頂いており、実際、病院の新たな収入源になっています。ただ、基本的にASUでは最低限のオペレーションに必要なお金だけを頂いて、そこでプロフィットを上げていこうという感覚ではありません。というのも、企業と一緒に進める研究開発は、医療従事者がアントナプレナー(起業家)になる可能性もあるなど、何がしかの形でwin-win シチュエーションになってきますので。

 それから、日本の医療は非常に安く受けられ、質も高いですよね。けれど、このクオリティーの高さやコストの安さというのは、かなり医療従事者の無理の上に成り立っているのも事実です。しかも現場の生産性は実は必ずしも高くない。

 適切にコマーシャリズムを持ち込んで、企業と医療現場がしっかりと連携することでイノベーション起こせば、現場がもっと楽になって、もっと生産的な働き方ができるようになる可能性だって広がります。そうなればおのずと今の医療レベル、コストの維持にもつながるでしょう。

 医療現場とともに取り組むイノベーションで企業は事業化につながる成果を上げ、それによって病院が潤い、医療従事者の働き方も楽になる――。そんなことを三位一体で進められればとの思いから、東北大学病院はASUに力を入れています。(談)

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