毎年、北米で開催されるディスプレー最大の学会「SID」。今回(2019年5月に米国サンノゼで開催)は様々な新技術が紹介されて非常に面白かった(関連記事1)。マイクロLEDのセッションでは最大の課題であるコストを具体的にどうやってどこまで下げられるのかが議論され、それを実現するための技術開発ロードマップも提案されるようになってきた。

 ドイツのAIXTRONは、「75型4Kテレビで現状、有機EL(OLED)に対して10~50倍のマイクロLEDディスプレーのコストを2022年ごろには同等のコストまで下げられる」というかなり強気の戦略を発表した(論文番号25.2)。楽観的な見通しではあるが、具体的に到達可能な技術として数字を用いて議論されるようになると、インパクトがある。

 実際にはもっと時間はかかるだろうが、将来的にいずれ競合できる水準まで来るかもしれないという見通しによって、競合技術の低コスト化が進むことになるだろう。今年(2019)は塗布側の有機ELパネルの展示が多かったが、マイクロLEDディスプレーの技術の進歩によって有機ELパネルの低コスト化の要求が高まっているのは間違いないだろう。

 今年はAR(Augmented Reality)用に開発されたマイクロLEDディスプレーが多数発表された。眼鏡型のような半透明ディスプレーを屋外で使用することを想定した場合には、様々な表示技術の中でマイクロLEDディスプレーだけが十分な輝度を確保できる。有機ELはVR応用とともにAR応用も狙っているが、マイクロLEDディスプレーの場合には最初からAR専用にすることで、コストが多少高くても輝度と解像度で勝負するというトレンドが生まれつつある。

 韓国LGディスプレー(LG Display)はマイクロLEDディスプレー技術の可能性と課題について幅広くレビューした。とても分かりやすい発表だった(論文番号32.1)。有機ELと比較して、コスト的にまだ厳しいものの、圧倒的な輝度と幅広い動作温度範囲からARは有望な市場であるとした。課題としては予想通り実装精度とコストを挙げた。解決策としてTFT上にマイクロLEDを形成する方法と、マイクロLED上にTFTを形成する方法の2つのアプローチがあるとした。またカラー化としてはフォトまたはインクジェットで量子ドット(QD)をパターニングする方法が有望だが、外部量子効率(EQE)に関しては大幅な改善が必要だとした。

 一方、マイクロLEDに比べるとやや地味な感じがあったミニLEDだが、TFTを用いてアクティブマトリクス化することでローカルディミングの分割数を飛躍的に増大させ、画質を改善した例が報告された(論文番号41.2)。まだコスト的には厳しいと思うが、将来的には液晶パネルのハイエンド機種は、このようなアクティブ型ミニLEDバックライトによるローカルディミングが主流になる可能性が高い。

 以下、オーサーズインタビューで展示されたものの中から、筆者の印象に残ったものを幾つか紹介する。

韓国ETRIの1μmピッチ画素ディスプレーのデモ(論文番号23.3)
単色ホログラフィックディスプレー用に横方向1μmピッチの画素を実現したSLM(Spatial Light Modulator)パネル。バックチャネルエッチ(BCE)型の酸化物TFTで、ゲート電極以外のすべてのレイヤーをデータ配線上に重ねて実現した。X方向だけに限ればTFTで2万5400ppiを実現できた。超高精細の発表が多かった中でも、特筆すべき論文である。(撮影:筆者)
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シャープの0.38型1053ppiのマイクロLEDディスプレー(論文番号25.5)
シリコン(Si)基板を用いた駆動マトリクス回路上にマイクロLEDチップを直接ボンディングして形成した。赤(R)と緑(G)の色変換にQD材料をフォトプロセスで形成している。輝度は1000cd/m2と極めて明るいのだが、画面を拡大すると写真がうまく撮れなかったので外観写真を紹介する。(撮影:筆者)
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シャープの12.3型酸化物TFT駆動フレキシブル有機EL(論文番号37.2)
車載用を狙っており、意図的に曲面にして表示していた。外部補償回路でIGZO TFTの電流ばらつきを補正している。車載用の高信頼性を確保したと表記されているが、具体的な寿命の表示はなかった。日本のパネルメーカーの存在が薄れていく中で、シャープが様々な発表で存在感を見せてくれたのはうれしいことである。(撮影:筆者)
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ソニーのレーザー書き込みフルカラーシート(論文番号57.2)
熱変色性のイエロー、シアン、マゼンタの3層を熱絶縁膜で挟んで積層化することで、フルカラーでの書き換えを実現したシート。Distinguished Paperに選ばれている。台湾E Ink Holdingsなどが開発しているこれまでカラー電子ペーパーに比べて格段に色が鮮やかなので、消費電力ゼロのフルカラーデジタルサイネージが実現するかもしれない。(撮影:筆者)
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