都内で開催中の「東京デジタルイノベーション 2019」のキーノートで、SOMPOホールディングスの楢﨑 浩一グループCDO・常務執行役員が講演。保険がいらない世界をデジタル変革で実現したいと訴えた。

 「破壊的な新規事業の創出に向けたデジタル変革」をテーマに掲げ、初日の基調講演に登壇したのは、SOMPOホールディングスの楢﨑 浩一グループCDO・常務執行役員である。商社時代に米シリコンバレー駐在を経験し、そのまま現地のベンチャー企業に転職。シリコンバレーで複数社の経営に携わった経験を持つ。2016年5月に、SOMPOホールディングスのグループCDOに就任した。

SOMPOホールディングス グループCDO・常務執行役員の楢﨑浩一氏
(撮影:新関 雅士)
[画像のクリックで拡大表示]

 「保険会社はデジタル変革のいちばんの被害者だ。であれば、自分達で率先して(現状を)破壊し、率先してデジタル戦略を推進していくことを目指した。既存の保険商品を販売するのではなく、安心・安全・健康な暮らしを支えるサービスを提供する」(楢﨑氏)

 SOMPOホールディングスが提供するサービスは「安心・安全・健康のテーマパーク」だと楢﨑氏は説明する。「これまでの保険は、事故や病気になってから必要になるものだった。これでは保険に対する顧客満足度は向上しない。現状を変革するためには、事故を起こさせない、病気にならないようなサービスを提供することが重要だと考えた」(楢﨑氏)

 IoT(インターネット・オブ・シングズ)の台頭やつながる世界の到来で、日常生活は大きく変化している。シェアリングエコノミーやスマートホーム、ウエアラブルデバイスの普及は、保険業界に破壊的なイノベーションを起こしているという。例えばUber(ウーバー)やLyft(リフト)の登場で、自動車の保有率は低下している。今後、自動車保険の顧客は、個人ドライバーから事業者(メーカー)にシフトし、その契約内容も変化する。

 今まで保険会社が扱ったことのないリスクも台頭している。サイバー攻撃による財産の盗取、不正アクセスによる仮想通貨流出などだ。楢﨑氏は「保険会社はレガシー(な商品だけでは)では生きていけない」と、業界が直面する危機を説明した。

 「我々が目指すのは保険が必要ない世界の実現だ。保険が必要ないほどの安心・安全・健康な世界を実現するためには、デジタル変革が必要になる」(楢﨑氏)

ベンチャーと協業してPoCを迅速に回す

 デジタル戦略の推進体制強化としての取り組みが、「既存ビジネスのデジタルシフト支援」と「新規事業の創出」である。デジタル技術で既存ビジネスを進化させると同時に、既存事業の強化にとどまらない新規事業を率先して開発していく。

 具体的には、東京とシリコンバレー、そして優秀なIT技術者が多いイスラエルのテルアビブにラボ(SOMPO Digital Lab)を設立し、現地のベンチャー企業と組んでPoC(概念実証)を積極的に推進した。2017年度(2017年4月~2018年3月)に実施したPoCは42件、そのうち10件を実サービスとして提供を開始したという。

 PoCで求められるのはスピードだ。現在、1つのPoCに要する時間は4.2カ月で、18人のエンジニアと5人のデザイナーがすべて自前で担っている。米グーグルが開発したオープンソースのTensorFlowや米アマゾン・ウェブ・サービスのAmazon Machine Learningを活用している。「高いAI(人工知能)を使うよりも、適切なデータで大量に学習させることのほうが、よい知見を得られる」(楢﨑氏)。

 例えば、AI技術を使ったOCR(光学的文字認識)処理で紙の保険証券を自動的に解析し、リアルタイムで保険見積もりを顧客に提示するサービスを提供している。ダイエット支援アプリを提供する米Noomと協業し、AIによる健康コーチングのサービスも開発している。

 デジタル変革に必要な人材の育成にも取り組んでいる。同社では2017年4月にデータサイエンティストを養成する「Data Science BOOTCAMP」を設立し、3カ月間の集中育成プログラムを年2回のペースで実施している。データサイエンティスト人材を中心に、新事業を創出するプラットフォーム「SOMPO D-STUDIO」を設立し、人材交流と新規ビジネスの事業化を支援しているという。

 「既存事業の変化にあわせ、デジタルドリブンで破壊的なイノベーションをグローバルに創出する。安心・安全・健康のテーマパークをさらに拡大していきたい」。楢﨑氏はこう述べて講演を締めくくった。