本記事は、日経 xTECHの「「2025年の崖」はシステム刷新で回避、経産省が異例の要請」(2018年9月26日掲載)を再編集したものです。

 2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要がある――。経済産業省は2018年9月7日に公表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」でこう記載した。いわば国が企業に対して基幹システムの刷新を迫った格好だ。言うまでもなく、システムの更新時期は企業が独自に判断すべきこと。異例の報告書と言ってよい。

 「どんなシステムを使っていようが国からとやかく言われる筋合いはない、との批判が出ることは承知している。本来的にはその通りだが、現在の状況が続けば社会的な損失につながると分かったので看過できなくなった」。報告書で企業にシステム刷新を促した理由について、DXレポートの作成を担当した経済産業省の中野剛志商務情報政策局情報技術利用促進課(ITイノベーション課)課長はこう説明する。実際、DXレポートには経産省の問題意識が現れている。詳しく見てみよう。

経済産業省の中野剛志商務情報政策局情報技術利用促進課(ITイノベーション課)課長

既存システムがデジタル変革を阻む

 このDXレポートは、日本企業がデジタル変革を推進するために乗り越えるべき課題や対応策について著したものである。2018年5月に、ユーザー企業とITベンダー、有識者などを集めて発足した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」が議論した内容をまとめた。

 最大の特徴は、日本企業のデジタル変革が進まない原因が、ブラックボックス化した既存システムにあると指摘したことだ。その論旨はこうだ。多くのユーザー企業では既存システムが事業部門ごとに構築されているため、全社横断的なデータ活用ができない。加えて、長年運用するなかで内部構造が複雑化し、IT部門にとってブラックボックスになってしまう。2025年には、基幹系システムを21年以上稼働している企業の割合が全体の6割を占めるようになり、企業のIT予算の9割以上が保守運用のために費やされる。

 既存システムにコストがかかるため、IT人材もそちらに奪われる。「2025年にIT人材が約43万人不足すると試算している。今ですら人手不足なのに、これ以上、古いシステムにIT人材を割り当てるのは社会的に問題だ。デジタル変革を担うIT人材がますます足りなくなる」(中野課長)。

 ヒトもカネも既存システムに取られ、デジタル変革が進まない。その間に他国の後れを取り、日本企業は国際競争力を失う。

 既存システムが残り続ける弊害は、デジタル変革を阻むことだけではない。システムの老朽化に起因するトラブルやデータ消失のリスクが高まり、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が発生すると試算する。これら2025年に向けた最悪のシナリオをDXレポートでは「2025年の崖」と呼ぶ。

DXレポートで指摘された最悪の将来シナリオ「2025年の崖」
(出所:『DXレポート』を基に日経 xTECH作成)
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ITベンダーも刷新に及び腰

 2025年の崖を回避する第一歩が、冒頭に挙げた基幹システムの刷新であるというわけだ。とはいえ、ユーザー企業にとって基幹システムの刷新は相応の労力とコストがかかる。そう簡単に決断できるものではない。

 システム刷新で直接的に儲かるのはITベンダーだ。「結局、経産省はITベンダーの都合を優先し、IT業界を潤わせたいだけではないか」。こう考える向きもあるだろう。

 しかし、経産省の中野課長はその考えを全面的に否定する。「むしろ、基幹システムの刷新したがらないITベンダーは多い」(中野課長)と打ち明ける。

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