AI(人工知能)を組み込んだシステムの構築は、従来の企業システム構築と比べ、どのような点が異なるのだろうか。要件定義やPoCなど、AI向けに新たに実施するプロセスが追加になる。架空の企業のAIシステム構築を例に、プロジェクトの進め方の概要を解説する。

 ここではAIを利用するシステム(以下、AIシステム)の構築プロジェクトについて、従来のプロジェクトとの進め方の違いや、AIシステムならではのタスク・検討事項を解説していきます。

 ここで述べるAIシステムとは、業務を行う中でこれまで人が担っていた「予測・判断」の役割を、AIが代替または支援するシステムとします(図1)。

図1 AIのモデルをシステムに組み込む例
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 「予測・判断」以外の「知覚」や「実行」に関わる機能の構築は、従来の企業システムの構築とは大きく変わりません。知覚は、AIが予測・判断するためのデータを獲得してAIへ引き渡す機能です。潜在顧客のデータから各顧客の有望度を判別し、有望顧客リストをメール配信するシステムを例に考えてみましょう。この場合、知覚は顧客の属性情報や営業情報から対象顧客データを作成し、AIへ入力する機能を指します。

 実行はAIの予測・判断を基に決められた業務処理を行う機能です。有望度の順に顧客を抽出し、営業担当者へ有望顧客リストをメール配信します。このようなデータ生成や処理の機能は、技術的には従来のシステムと同様であると考えることができます。

 では、AIが担う「予測・判断」はどうでしょうか。AIの予測・判断の処理は、人がロジックを決めただけで実現できるものではありません。AIはデータから学習した入出力パターンを基に予測・判断を行います。より詳しく見ていくと、学習データをアルゴリズムへ投入することで、アルゴリズムがデータのパターンを自動で学習し、予測・判断を行うモデルを生成します。これがAIシステムにおける予測・判断機能の実現方法になります(図2)。

図2 AIシステムにおける予測・判断機能の実現方法
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 以下では、「学習」というプロセスが存在することで、従来のシステム構築プロジェクトの進め方やタスクとどのような違いが生じるかを軸に、AIシステム構築プロジェクトの特徴と全体像を説明していきます。

予測・判断をモデルが代替

 AIシステムの構築プロセスをウォーターフォール型のプロセスに当てはめると図3のようになります。

図3 AIシステムの構築プロセス
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 知覚、実行は従来のシステム構築と同様のプロセスで構築しますが、予測・判断の実現にはグレーで示すプロセスを追加する必要があります。グレーのプロセスには、予測・判断の機能を学習で実現し、維持するためのプロセスも含まれます。

 追加するプロセスの中で最も特徴的なのが、要件定義フェーズの進め方です。業務要件を定めた後、システム要件の定義を行う中で「AI要件定義」を行います。AI要件定義ではシステムを構成する1つの領域として、AIの機能や非機能要件を定めていきます。ここではさらにAI要件定義の実現性をPoC(Proof of Concept、概念実証)で検証し、その結果を基に要件の見直しや詳細化を行います。このような進め方を採る理由は後で詳しく述べます。

 ここからは、AIシステム構築のプロセスを具体的にイメージするために、AIを組み込んだ営業支援システムの構築を例に説明していきたいと思います。

 オフィス用品販売大手のA社の法人営業担当部署では、直近の顧客の行動履歴を基に、未購入商品の追加提案が見込める有望顧客をAIで予測し、営業担当者へ知らせるシステムを開発しようとしています。行動履歴のデータとしては、自社が運営するWebサイトの商品ページ閲覧履歴や、カタログの請求データ、見積もり・発注依頼などを持っています。

 A社はこれまで、顧客からのヒアリングや、問い合わせといった直接的な対話で得られた情報を基にニーズを把握して追加提案を行ってきました。しかし昨今、販売経路の多様化や商品点数の増加、受注数の小口化などによって、特定の大口顧客以外は営業担当者がフォローできない状況が発生していました。そこで営業担当者がフォローしきれない顧客の行動履歴をAIで網羅的にチェックし、追加提案の機会を見つけるシステムの導入を決断しました。

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