私は最近、機会があるたびに人月商売の現場で酷使される技術者に転職を勧めている。ホワイト企業のSIerの技術者に対しては「どうぞご自由に」なのだが、下請けITベンダーの技術者には「人材不足という千載一遇の好機を逃すな」と連呼している。この「極言暴論」の記事ではもちろん、実際に技術者に会った時もそう呼び掛けるし、Twitterでも定期的にそんなつぶやきを発し続けている。

 前回の極言暴論の記事はその決定版と言えるものだ。これからIT業界で起こる雇用のミスマッチについて、具体的な数字を上げて説明したから説得力があったはずだ。2025年には人工知能(AI)など先端ITやセキュリティに関わる技術者が40万人不足する一方で、人月商売の技術者は40万人が用済みとなる。だから、人月商売の技術者は今のうちにユーザー企業や真っ当なITベンチャーなどに転職して、新たなキャリアを切り開くべきことを理解してもらえたと思う。

 そもそもユーザー企業の自己満足にすぎないようなシステムの一部の機能を作らされているようでは、仕事に対するやりがいも持てまい。技術力やスキルを磨けず、システム開発プロジェクトが大炎上すれば過酷な長時間労働が待っている。それに「技術者が3人、単価70万円で売れた」などと平気で言うような人物が経営するITベンダーにいては、仮にその企業がこれから先に生き残ったとしても、ベテランになった技術者の雇用は本当に危うい。

 実は、私が技術者に転職を勧めるのには、別の理由というか悪巧みがある。悪巧みと言っても、もちろん技術者を陥れようといった類いのものではない。技術者は転職する際、再び人月商売の下請けITベンダーに入社してしまう過ちを犯さない限り、間違いなくハッピーになれる。悪巧みとは、IT業界の多重下請け構造に組み込まれた技術者に転職を促すことで、多重下請けによる人月商売をできるだけ早く成り立たなくさせることだ。

 もうピンと来たことと思う。SIerが主導する人月商売は知識集約型産業でも先端産業でもなく、人海戦術に頼った単なる労働集約型産業である。つまり、人がいなくなれば成り立たないビジネスだ。どうせ瓦解するなら一刻も早く瓦解したほうがよい。さらに人月商売が成り立たなくなれば、ユーザー企業では「俺様仕様」のシステムの是正が進む。つまり人月商売の技術者の転職は自分のためだけではなく世のため人のためにもなるのだ。なんと素晴らしいではないか。

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