IT関連トラブルを検証する日経コンピュータのコラム「動かないコンピュータ」から、裁判に発展した事例を再録しました。本記事は、日経コンピュータ2014年11月27日号の「動かないコンピュータ」です。

野村ホールディングス(野村HD)と野村証券が日本IBMに対し、開発費用など計33億円の損害賠償を求めるIT訴訟の詳細が判明した。海外製パッケージソフトを利用したシステム導入の失敗が裁判へと発展した。なぜシステム開発が中止に追い込まれたのか。裁判資料や内部関係者の話から検証する。

 野村HD、野村証券が日本IBMに対して東京地方裁判所に訴訟を起こしたのは2013年11月で、現在も係争中だ。このIT訴訟の構図は、最高裁判所で係争中の「スルガ銀行-日本IBM裁判」と瓜二つである。国内導入実績がない海外製パッケージソフトの導入に挑むが、開始当初からトラブルが頻発。プロジェクトは中止に追い込まれた。

 野村2社が東京地裁に提出した訴状によれば、日本IBMは開発の過程でスケジュールの遅延が繰り返したうえ、要員を十分な引き継ぎなしに頻繁に交代させた。その結果、テスト工程で問題が顕在化。十分な品質のシステムを完成できる見通しが立たなくなり、野村はプロジェクトの中止を日本IBMに伝えたとする。

 日本IBMは全面的に争う構えだ。システムは完成間近であり、野村が自社の都合で一方的にプロジェクトを打ち切ったと主張する。裁判資料や内部関係者の話に基づき、経緯を見ていく。

 今回の争いの対象は、個人が資産運用を証券会社に一任する金融サービス「ラップ口座」向けフロントシステムである。運用担当者はこのシステムを使い、顧客の要望に沿ったポートフォリオ管理計画を作成する。

老朽化したシステムを刷新

 野村証券は2008年ごろから、老朽化した基幹系システムを2013年までに全面刷新する計画を進めていた。併せて、ラップ口座システムの刷新を決めた。その際に「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やパッケージソフトを活用してIT費用を抑える方針を打ち出した」(内部関係者)。

 ラップ口座システムの開発は日本IBMと、既存ベンダーである野村総合研究所(NRI)とのコンペになった。

 日本IBMは、ラップ口座向けパッケージソフト「Wealth Manager」のカスタマイズ導入を提案した。WealthManagerは、金融系ソフト大手であるスイスのテメノスが開発した。テメノスはIBMとパートナー関係にあり、日本IBMはスルガ銀行の勘定系システムの開発が頓挫しかけた2007年ごろ、代替案としてテメノス製パッケージ「TCB」を提案したことがある。

 一方、NRIが提案したソフトは5000以上の口座数には対応しないなど、野村側の要求とは開きがあった。最終的に野村2社は日本IBMの提案を採用、2010年11月に契約を結んだ。

 この時点でのスケジュールは以下の通りだ。2011年1~4月に要件定義を行い、基本設計、詳細設計を経て、2012年3月末に内部テストを完了。NRIの証券総合バックオフィスシステム「THE STAR」と接続する総合テストを経て、2013年1月4日に本稼働させる。開発費用は17億7900万円と見積もられていた。

 Wealth Managerは日本での導入実績がない。そこで要件定義の前段となる2010年11~12月に事前検証のフェーズを設けた。

要件定義段階で遅延

 だがこうした慎重な準備にもかかわらず、プロジェクトは要件定義の段階から遅延した。日本IBMは2011年6月に、「このままでは開発費用が膨れ上がる」として、要件定義の再レビューを提案した。本来はWealth Managerの機能をベースに、ユーザー固有の機能を抽出すべきところ、野村の現行業務をベースに要件定義を実施したため、Wealth Managerの機能を有効に使えず、要件が増大したからだという。

 野村は提案を受け入れ、2011年7月に要件の再レビューを実施。最終的に、開発費用の目安を約27億円とする要件を固め、プロジェクトは設計フェーズに移行した。だが、トラブルはこれだけでは終わらなかった。基本設計を始めた2011年8月以降、日本IBM側の主要メンバーの離脱が相次いだのだ。

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