IT関連トラブルを検証する日経コンピュータのコラム「動かないコンピュータ」から、裁判に発展した事例を再録しました。本記事は、日経コンピュータ2007年1月8日号の「動かないコンピュータ」です。

静岡県の地方銀行であるスルガ銀行は、2008年1月を予定していた新勘定系システムの全面刷新を延期する。国内で稼働実績がなかったパッケージを採用したが、設計・開発作業が難航した。開発を担当する日本IBMと共同で、プロジェクト・チームを再編。要件定義を見直して再度開発を進めている。

 従来のシステムのように、口座単位で預金の残高を管理するのではなく、顧客単位で普通預金や定期預金、投資信託商品など複数の口座の残高を、まとめて管理できる―。

 スルガ銀行が現在全面刷新を進めている勘定系システムの特徴を一言にまとめればこうなる。同行は、資本金300億4300万円、国内に119店舗を構える中規模の地方銀行。預金高は2兆7966億7200万円(2006年3月末)だ。

 06年5月に発表した05年度(06年3月期)の決算短信で同行は、「多様化するお客様のご要望に迅速に対応できるよう、新商品・サービスのスピーディーなご提供の実現に向け、08年1月の稼働を目指して、新経営システムの開発を進める」と記述している。

 スルガの現在の基幹系システムは日本IBMのメインフレームで動作するもの。スルガは、勘定系とCRM(顧客関係管理)をはじめとする情報系システムと統合した形で、新経営システムを完成させる予定だった。

 だが勘定系を含む新経営システムの現実の全面稼働は、08年1月を過ぎることになった。

IBMのNEFSSの第1号ユーザーに

 スルガが新経営システムの開発をスタートさせたのは04年末のことである。それに先だって、スルガは複数のITベンダーから提案を募った。その結果、04年10月に現行システムでもハードを利用しているIBMからの提案の採用を決定している。

 IBMの提案は、オープン勘定系システムである「NEFSS(Next Evolution in Financial Services Systems)」を勘定系に採用。情報系については別途手作りを含めて開発する。

 ハードウエアは、日本IBMのメインフレームであるzSeriesとUNIXサーバーのpSeriesを利用。データベースとWebアプリケーション・サーバーも、ともにIBM製品であるIBM UDB DB2とWebSphereを用いる。

 通常、「スルガ規模の銀行の基幹系システムを、メインフレームで再構築すれば400億円近くかかる」(地銀勘定系の開発経験者)。当初、スルガ銀行は新経営システムの構築をその半分程度の200億円程度に抑えるつもりだったが、IBMの提案はさらにその半額の100億円程度だったとみられる。そのうえ、オープン系に移行することで運用保守のコストを年間で約3億円ほど減らすこともできた。スルガはこれらの点を評価したしたようだ。

 ただ04年の時点では、NEFSSに稼働実績はなくスルガは国内第1号ユーザー。当時、預金や為替など標準的な業務コンポーネントを実現する勘定系パッケージの一部も未完成だった。日本IBMは、同行の新システムを構築するだけにとどまらず、国内の金融機関で広く利用できるようにNEFSSを完成させるプロジェクトをIBMと共同で実施することとした。

パッケージの機能が足りなかった

 スルガの新運営システムの再構築プロジェクトは、04年末にスタートした。実際のシステムの開発には、IBMの協力会社として、金融システムの構築経験がある複数のシステム・インテグレータが参加することになった。

 具体的には、旧大和銀行のシステム開発を手掛けたディアンドアイ(D&I)、旧北海道拓殖銀行のシステムを手掛けた日本アイビーエム・ソリューション・サービス(略称ISOL)などだ。さらにこれらの企業の協力会社として、DTSやエー・アンド・アイシステムといったインテグレータがプロジェクトにかかわる。これらの企業を含めれば、総勢で100人前後の技術者がプロジェクトに参加していたとみられる。

 NEFSSは業務コンポーネントと銀行向けシステム基盤の二つで構成している。開発の対象となったのは主に、業務の中核を担う業務コンポーネント群である。

 預金や為替など標準的な業務コンポーネントは、米フィデリティ・インフォメーション・サービスの勘定系パッケージである「Corebank」を使う。Corebankの基本パッケージ部分は完成しているが、日本のユーザー向けに追加開発が必要だった。

 融資業務にかかわる様々な機能のほか、銀行間のオンラインによるトランザクション連携や口座振替、通帳機能などがそうである。これを追加開発しようとした。

 だが、この追加開発が順調に進まなかった。日本固有の業務についての機能不足はスルガもIBMも分かっている。Corebankをカスタマイズしようと考えた時点で、融資のボーナス返済機能など、日本の銀行固有の機能は盛り込んだはずだった。

 それでも本誌の取材によると、融資の金利計算ロジックなどで、再設計が必要な部分があることが判明したとみられる。もう一つの問題はスルガの業務独自の仕様である。これを満たそうとした結果、当初の計画よりも作り込みの部分が膨らんでしまった。

 システム基盤の開発にも問題が生じたのではないか、と指摘する専門家もいる。システム基盤は、勘定系システムに必要な信頼性や可用性を確保するためのミドルウエアになる。

 「オープン系で勘定系システムを構築しようとする時に、大きな問題となるのはミドルウエア、NEFSSで言えばシステム基盤の実装だ。NEFSSのシステム基盤の仕様自体に問題はないようだが、トランザクション制御などの信頼性と可用性が要求されるシステム基盤の完成には時間がかかる」(同)。

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