ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)が社運をかけてソフトウエア企業への脱皮を図る。その背景には、ディーゼル不正問題の発覚によって同社の技術戦略が手詰まり状態に陥ったことがある。表面的には電気自動車(EV)への大転換をうたうが、ディーゼル車の穴を埋めることは規模の点で難しい。むしろ、これからはソフトウエアがクルマの価値を決める。同社はそこにいち早く手を打った。

 「我々はクルマメーカーからソフトウエアメーカーに生まれ変わろうとしている」。ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)社長のヘルベルト・ディース(Herbert Diess)氏は、社運をかけて戦略の大転換に踏み切る(図1)。今後クルマの技術革新の9割はソフトによってもたらされると見ているからだ。

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図1 社運をかけてソフトウエア企業への転換を図る
(a)VW社長のヘルベルト・ディース氏。クルマメーカーからソフトウエアメーカーへの転換を急ぐ。(b)「vw.OS」を搭載した最初のクルマ「ID.3」。(c)ID.3の内装。(撮影:日経Automotive)

 同社はこれまでもソフトの重要性をたびたび指摘してきたが、いよいよグループ横断型のソフトウエア専門組織「Car.Software」が動き出す。2025年までに同組織のソフト技術者を1万人規模に増やし、70億ユーロ(120円/ユーロ換算で約8400億円)を投じてソフトの内製比率を現在の10%未満から60%に高める。

 すでに自前のソフトウエア基盤「vw.OS」を搭載した最初のクルマ「ID.3」の量産を2019年11月に開始した。クルマをスマートフォンのような情報端末と位置づけ、「iOS」や「Android」のような独自OSを通じて“デジタルプラットフォーマー”への転換を目指す。

 情報端末としてのクルマのポテンシャルは高い。移動能力に加え、360度センサーや大容量の電池、大画面ディスプレーなどを持ち、ステアリングやシートを通じて人の体にも触れる。スマートフォン以上に貴重なデータを集められる可能性が高い。

 「デジタルプラットフォームで最も重要な指標はアクティブユーザー数だ」とディース社長は指摘する。VWは2018年に約1083万台の新車を販売した世界最大の自動車メーカーだ。5年で5000万台、10年で1億台になる。台数競争の時代は終わったといわれて久しいが、同社が販売台数にこだわるのは、デジタル時代の規模のメリットを追求したいからだ。vw.OSは同社のほぼすべての車両に導入するほか、外販も視野に入れる。少なくとも提携した米フォード(Ford Motor)が採用する可能性がある。

既存事業に手詰まり感

 VWが社運をかけてソフトウエアに注力する背景には、既存事業が深刻な手詰まり状態に陥っていることがある(図2)。2015年に発覚したディーゼル不正問題をキッカケに、パワートレーン戦略をクリーンディーゼルから電気自動車(EV)に転換したが、EVがさほど売れないことはVWも分かっている。EVへの転換だけではディーゼルの穴は埋められない。EVシフトと同時にソフトウエア戦略を推し進めることが、事業の立て直しに不可欠とみられる。

図2 苦境にあえぐVW
VWはディーゼル不正問題をキッカケに戦略の見直しを迫られた。ディーゼルに代わってEVを新たな主力に育てる戦略だが、実現は容易ではない。残るは、ソフトウエア企業への脱皮である。日経Automotiveが作成。
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 同社がEVを選択したのは、欧州連合(EU)の二酸化炭素(CO2)排出規制に対応するためだ(図3)。EUは2021年までに乗用車のCO2排出量を平均95g/km以下に削減することを義務付けた。基準を1g上回るたびに販売台数1台当たり95ユーロ(約1.1万円)の罰金が科せられる。VWの場合、「単年で2000億円規模の罰金が発生する可能性がある」と複数の調査会社が指摘する。

図3 2018年時点での欧州CO2規制への対応状況
2021年の欧州CO2規制への対応状況を見ると、VWはトヨタなどの競合に比べて遅れている。目標を達成できなかった場合、巨額の罰金を支払うことになる。国際クリーン輸送協議会(ICCT)の資料を基に日経Automotiveが作成。
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 その対策の一つとして、VWをはじめとするドイツ自動車メーカーは48Vのマイルドハイブリッドシステムを規格化した。もともと欧州市場は走行距離が長く、EVは力不足とみられている。48Vシステムは既存のエンジン車に安価に取り付けられ、燃費を改善できる。VWが2019年10月に発表した主力車の8代目「ゴルフ」も48Vシステムを搭載し、燃費をWLTPモードで10%改善した。

 ただ、48VシステムによるCO2の削減効果は限定的であり、21年比で37.5%減と厳しくなる2030年のEU CO2規制には対応できない。今さらストロングハイブリッド車(HEV)を出すわけにもいかない。HEVで20年の実績があるトヨタ自動車にコスト競争で勝てる見込みがないからだ。残る選択肢は、走行時のCO2排出量をゼロにできるEVしかないのである。

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