ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen:VW)が2019年11月27日に日本で発売した小型SUV(多目的スポーツ車)「T-Cross」は、ホンダ「VEZEL(ヴェゼル)」やマツダ「CX-3」といった国産の小型SUVを競合車に据えた戦略車だ(図1)。にもかかわらず、今回は仕様を2グレードに絞り込んだ。その背景には、顧客の取りこぼしを防ぐ狙いがある。顧客の需要と供給の差を極力抑えることで、着実に販売台数を増やす。

図1 小型SUVのエントリーモデルに当たる「T-Cross」
(撮影:日経Automotive)
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 T-Crossは競合相手のヴェゼルやCX-3と比べると、車両寸法では大きな差がない。人気がある小型SUV市場では手ごろな大きさで、日本のユーザーも選択しやすい仕様だ(図2)。そこで、国産車でADAS(先進運転支援システム)の標準搭載が進んでいることを考慮し、T-CrossでADASを標準で搭載。装備の面でも国産車に引けを取らないように配慮した。

 特に価格は競合車に真っ向から挑む。T-Crossの最下位グレードは300万円を下回る価格に設定。ヴェゼルやCX-3の価格帯である250万~300万円に近い値付けとした。車両寸法、装備、価格とも、輸入車でありながら国産車に近い値ごろ感に設定したことで、高い競争力が期待できる車に仕上がったと、日本法人のフォルクスワーゲングループジャパン(VWジャパン)は見る。ここに“フォルクスワーゲン”のブランド力が加われば、「売れる自信がある」(フォルクスワーゲングループジャパン営業本部プロダクトマネージャーの山崎信雄氏)というわけだ。

図2 T-Crossが競合車として想定するホンダのヴェゼルとマツダのCX-3
各社のリリースやウェブサイトなどの情報を基に日経Automotiveが作成。(写真:左はフォルクスワーゲン、中央はホンダ、右はマツダ)
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 だが、怖いのは顧客を取りこぼすことだ。T-Crossを売り出す際にラインアップを広げすぎると、多様な顧客需要に工場が対応しきれなくなり納車が遅れてしまいかねない。

 フォルクスワーゲンの場合は、新車を納車するのに組み立てから納車まで3~4カ月かかる。ある程度顧客の需要を見越してそれぞれのラインアップを用意しておくが、ラインアップが複数あると需要予測が難しくなる。顧客の需要によっては、あるグレードは在庫があるものの、別のグレードは在庫がなく追加生産しないと供給できないという事態が起こり、グレードによっては納車までの時間がかかってしまうことになりかねない。

 「納車まで時間がかかるなら購入はやめよう」と顧客の購入意欲が減退すれば、せっかくの需要を取り逃がしてしまうというわけだ。

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