英オックスフォード大学で2019年9月16日、「AI倫理にかかわる100人以上の女性たち」をテーマにした会議が開催された。著名な大学教員や企業関係者、作家などによる話題提供に加えて(1)アルゴリズムと社会、(2)世界の仕事、(3)データと意思決定、(4)AIとグローバルガバナンスというトピックでワークショップが設けられた。

ワークショップの結果を共有するため、各ワークショップのファシリテーターが壇上に集合
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 このトピックの並び自体は他の類似の会議でもよく見かけるものだ。同会議で際だって特徴的だったのは、会議の参加者した約150人のほとんどが女性だったことだ。筆者は今まで様々な会議に参加してきたが、AI関連でこれほど女性率の高いイベントは初めてだった。

 なぜ「ほぼ女性」のAI会議が開催されたのか。会議に参加した筆者の視点から、会議の意義や議論の内容を報告しよう。

AIと女性というテーマ

 「AI倫理と女性」が会議のテーマとして成立する背景の1つに、AIを設計するとき、あるいはAIに学習させるデータを集めるときに意識的・無意識的に関わらず、女性の存在を軽視している(あるいはそもそもデータが存在しない)ため女性に不利益が生じてしまったいくつかの事例の存在がある。2018年10月に米アマゾン・ドット・コムが採用AIの開発を断念したことが明らかになったのは記憶に新しい。この採用AIは過去の採用例を学習した結果、女性であることが不利に働く結果を出すようになったからだ。

 データやアルゴリズムを含め、ある新技術にどのような社会的ニーズがあるかを考えるときに、女性を含めた多様な視点や、様々な立場からのフィードバックが必要となる。本会議に参加した女性たちは様々な分野、業種、立場からAIに関わっており、そこでの議論の内容に深みを与えていた。

実際に議論されたのは「パワー」の問題

 女性が大半を占めるAI会議だからジェンダー特有の話に終始した、というわけではない。

 例えば「未来の仕事」をテーマにした議論では、AIの発展に伴って雇用を奪われるか再教育が必要になる、いわば「本当の当事者」になりうる貧しい人たちや南半球(Global South)の途上国の人たちの声や問題意識をどのように吸い上げるか、が議論された。

 子どもをデータ利用やプロファイリングから守ることの重要性も議論にあがった。ただし、子どもたちを技術から遠ざけたるのではなく、むしろ積極的に技術に関わらせることで課題を認識させ、自分事として議論してリテラシーを身につける場を提供するとの意見が出された。実際にそのような具体的な活動に従事している人もいた。

 このような発言や活動からわかるように、会議の参加者の問題意識としては、ジェンダーだけではなく「社会的な弱者」「声を上げられない人」の立場に立って、社会に埋め込まれた権力(Power)の問題に、どのように立ち向かっていくか、多様な人々を包摂して社会をともにどのようにして作り上げていくか(co-design)が議論の中核にあった。

会議はオックスフォード大学最初の女性のためのカレッジであるレディ・マーガレット・ホールカレッジで開催された
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多様性と包摂の難しさ

 「AI倫理と女性」というテーマを掲げる目的は、会議から男性を排除することではない。今まで物理的あるいは心理的な制約があって会議に参加できなかった人たちを招き、誰でもが気軽に会議に参加できるようにするのが本来の趣旨だ。その象徴として「女性」を掲げているにすぎない。主催者の一人は挨拶の中で、男性参加者に「子供を連れてきていいか」と相談され、自信をもってイエスと言えたと述べていた。

 実際、同会議は年齢層も多様だった。昼休み前のセッションには、高校生を対象にした「AIについて」と題するエッセーやアートコンテストの1位と2位、それぞれ二人ずつに対する表彰式もあった。このコンテストは本会議に合わせてオックスフォード大学が企画したもので、若者の意見を会議に持ち込もうとする試みであった。会議には、この分野に興味を持つ大学生や大学院生も多く参加していた。

 一方で、多様性を担保し様々な人たちを包摂する試みは、主催者側にとっては、とても大変なことである。考慮すべき多様性はジェンダーだけではないし、発表者に限らず参加者全体の多様性が求められる。発表者に未成年がいる場合にはプライバシー確保や安全をどう担保するか、参加者が子供や親を連れてきても大丈夫か、建物はバリアフリーになっているかなどなど、「いつも通り」の会議の形式であればほとんど考えなくてもいい事柄にも頭を悩ませることになる。しかもそれを限られた予算の範囲内で実現しなければならない。

 さらに取り扱う内容のクオリティーや目的を見失わないためにも、「完璧に」多様性に配慮することは難しい。最初から完璧を目指さずに、できるところから始めよう、やれる範囲で挑戦しよう、問題があったらフィードバックを得て次回へとつなげていこう、という柔軟さと臨機応変さも求められる。

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