医師とAIが協調しながら治療に取り組む動きが各所で進んでいる。難病患者の治療法を見つけ出し、救った命もある。医療現場の最前線における、医師と「名助手」の挑戦に迫る。

 「科学の進歩のおかげで命をいただいている。感謝している」。山下あや子さん(70)はこう言って、笑みをこぼす。

 今は東京都大田区の自宅から電車やバスで都心に出向き、家族や友人と買い物や食事を楽しむなど元気な日々を過ごす。しかし4年前は命を脅かす病に冒されていた。

 山下さんが東京大学医科学研究所附属病院(東大医科研病院)に緊急入院したのは2015年1月のことだ。別の病院での検査で白血球の値が急激に落ちていると分かり、受け入れ先の東大医科研病院にタクシーで向かった。

患者の山下あや子さん(右)と医師の横山和明助教
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東京都港区にある東京大学医科学研究所
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「一刻を争う状況」

 すぐに骨髄検査をしてみると、急性骨髄性白血病と分かった。免疫をつかさどる白血球や、酸素を全身に運ぶ赤血球、止血する役割を担う血小板を正しく作れず、重度の貧血だった。「白血病細胞に完全に乗っ取られる前に治療する必要があり、一刻を争う状況だった」(東大医科研病院血液腫瘍内科の横山和明助教)。

 早速、造血の邪魔をする白血病細胞を減らすため、抗がん剤を使った化学療法である「地固め療法」などを試した。だが結果は芳しくなかった。2015年2月に1度目、5月に2度目を試したものの効果は限定的。横山氏は「地固め療法をやると1カ月前後で回復してくるはずが、むしろ肺炎を起こすなど状態が悪くなった」と話す。

 移植という選択肢もあったが「放射線と大量の抗がん剤で本人の骨髄を焼き尽くしてから、他人のものを植える手術なので、それだけで命を落とす危険性がある」(横山氏)。しかも山下さんは当時60代半ば。年齢的なリスクを考えても、移植手術の可否は慎重に判断する必要があった。

 「地固め療法をもう一度試して、様子をみようか」。横山氏らが治療方針を巡って頭を悩ませていた頃、東大医科研が日本IBMと始めたのが、同社のAI(人工知能)システム「Watson」などを活用したがんゲノム医療の研究だった。「何かヒントが得られるかもしれない」。横山氏はWatsonを活用した研究に一縷の望みをかけた。

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