「『個人情報等の活用促進』をテーマにした小委員会を自民党内に立ち上げられないか、と働きかけている」。自民党に所属する山田太郎参議院議員はこう明かした。個人情報を含むパーソナルデータの積極的な活用を議論する場を作りたいという。

 山田議員が動くきっかけになったのは、Webサイトを訪問したユーザーの情報をブラウザーに一時保存する機能「Cookie(クッキー)」の利用が規制されるのでは、というネット上の議論だったという。朝日新聞が2019年10月29日付で報じた「『クッキー』情報収集、公取委規制へ」などの記事を機に、「欧州のように、いちいちCookie利用の同意を求めるようになるのか」「ネット広告が終わる」など懸念の声が相次いだ。

 この「Cookie規制」は突然出てきた話ではない。公正取引委員会はGAFA(米グーグル、米アップル、米フェイスブック、米アマゾン・ドット・コム)といった巨大IT企業を独占禁止法で規制するに当たり、個人情報からCookie情報まであらゆるパーソナルデータの収集に網をかける方向で検討を進めていた。

 例えば公取委が同年8月29日に公開した文書「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」には、「不公正な手段により個人情報等を取得又は利用することで消費者に不利益を与えた」場合、独占禁止法上の問題が生じるとしている。

 ここでいう「個人情報等」とは、「消費者の属性、行動等、当該消費者個人と関係する全ての情報」を指す。日本経済新聞は同年8月31日付の社説で「公取委は個人情報の幅を広げ、個人情報保護法などでは対象としていないウェブの閲覧履歴などの『クッキー情報』や携帯電話の位置情報も含める方針だ」と報じている。

「不当な取得・利用」の基準が曖昧

 山田議員は公取委の「考え方(案)」には重大な問題点があると指摘する。優越的地位の濫用(らんよう)に当たるとされる「個人情報等の不当な取得・利用」の基準が曖昧である点だ。「『不当』の意味が個人情報保護法などの法律違反であれば分かりやすいが、公取委は個人情報の定義にはとらわれないと言っている」(山田議員)。基準が曖昧なまま独占禁止法が運用されることで「デジタルマーケティングなどのビジネスの発展を阻害しかねない」と山田議員は危惧する。

 経済団体連合会(経団連)の山田佑産業技術本部主幹も、個人情報の枠を広げようとしている公取委の方針に懸念を示す。「『個人情報等』が何を指し、何を規制したいのかがはっきりしない。個人情報保護法と整合性が取れない形にはしてほしくない」(経団連の山田主幹)

 山田議員と経団連の主張には、1つの共通点がある。「特定の個人とCookie情報をひも付ける行為については、公取委に頼らなくても、現行の個人情報保護法で規制できるはずだ」というものだ。

 Cookie自体は個人でなくブラウザーにひも付いた情報であり、単体では個人を特定できない。この点からCookie単体は個人情報ではないとされている。ターゲティング広告も、ターゲットとするのは個人でなくブラウザー、という解釈だ。

 一方、CookieおよびCookieにひも付くWeb閲覧履歴などを、企業が持つ個人データベースにひも付ける行為については、個人情報保護法の規制対象になり得る。

 個人ではなく機械にひも付く識別情報には、Cookieのほか端末ID、IPアドレスなどがある。「こうした『マシンデータ』の流通が規制されれば、新たな技術やビジネスの創出を阻害する。これらのマシンデータ自体を規制するのではなく、マシンデータと特定の個人とをひも付ける行為を個人情報保護法で規制すればいいのではないか」(経団連の山田主幹)というわけだ。

Cookie規制に及び腰の個人情報保護委員会

 だが現実には、「Cookie情報と特定個人をひも付ける行為」について、個人情報保護委員会が行政指導など具体的な行動を起こした例はこれまでなかった。

 同委員会は18年10月、Webサイトに埋め込まれた「いいね」ボタンを通じたWeb閲覧履歴の収集について、米フェイスブックに行政指導している。

 ただしこの件を指導の対象にできたのは、Cookieではなく利用者の実名とひも付いたログイン済みユーザーIDとともにWeb閲覧履歴を送信する仕様だったためだ。「Cookieに基づくWeb閲覧履歴の収集について指導したわけではない」(同委員会)という。

 「Cookie情報の提供」の規制に消極的な同委員会の姿勢が如実に表れたのが、リクルートキャリアの運営する就職情報サイト「リクナビ」を巡る問題だった。

  同委員会は、リクルートキャリアが学生のWeb閲覧履歴を基に内定辞退率を算出して販売していた問題で、同社への勧告および指導を19年8月26日に実施した。

 その中で、学生の氏名をハッシュ化して突合していた19年3月以降のスキーム(新スキーム)については個人情報保護法違反を認定した一方、19年2月以前の旧スキーム、すなわちCookieの突合で特定個人と内定辞退率をひも付ける行為は「リクルートキャリアから顧客企業への個人データの第三者提供が行われない形態」と記載するなど、適法と判断しているかのように記述した。内定辞退率販売の旧スキームについて、日経 xTECHの取材に対して同委員会は「適法だと判断したわけではなく、現在も調査を継続中」と回答していた。

 そしてリクルートキャリアへの勧告から3カ月後の19年11月25日、同委員会はようやく重い腰を上げた。個人情報保護法の次期改正に向け、Cookieなどを利用してデータの提供先企業が個人情報を扱う場合について、新たな規律を検討する方針を明らかにした。

この先は有料会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が2020年1月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら