日本の病院が顔認証やAIなどデジタル技術の活用に乗り出した。病気の患者を治療する「受け身」から、予防を支援する「攻め」への転換を狙う。命に関わるプラットフォーム作りでGAFA超えを目指す病院の挑戦を追う。

患者自ら医療データを院外で活用

 石川県七尾市にある恵寿総合病院は検査や治療の情報を患者本人と共有する仕組みを構築した。メディカル・データ・ビジョンの情報共有サービス「カルテコ」を2017年9月から採用している。利用者は現在およそ3000人だ。希望者は登録すれば無料で使える。

 これまでコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの医療画像、血液検査の結果のデータなどは病院内で閲覧、参照しなければならず、患者が院外に持ち出すには面倒な手続きが必要だった。

 一方で恵寿総合病院は患者が自身の病名や検査結果、治療で利用された薬、処方薬、治療や手術の内容、検査項目、健康診断の結果などをスマートフォンアプリやWebサイト、病院内の専用端末で閲覧できる仕組みを提供している。この仕組みは生活習慣病などの患者の回復を促す可能性がある。「患者自身に治す意思が無いと回復しにくい。患者と情報を共有して、自分自身で状態を確認してもらうことが重要と考えて始めた」と同病院の神野正博理事長は話す。

図 恵寿総合病院が構想しているデータ活用例
患者が自らの医療情報を病院外でも利用
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 治療や健康情報の共有は、患者だけでなく医療関係者にもメリットがある。例えば恵寿総合病院に入院あるいは緊急搬送された患者は、退院後に地元の小規模クリニックで日帰りの治療を受けることもある。もしカルテコを利用している患者であれば、クリニックの医師は患者の同意のもと、治療歴や検査値、医療画像を確認でき、治療の判断がしやすくなる。「メリットを感じるクリニックの医師が多く、恵寿総合病院で治療を受けたことがある患者にカルテコの登録を促してくれているようだ」と神野理事長は話す。

 患者にとってはセカンドオピニオンを受けやすくなる利点もある。一般的にセカンドオピニオンを受ける場合は、患者が主治医に申し出て治療の情報をもらう必要がある。だが、セカンドオピニオンを受けたいと主治医に直接伝えづらいと感じる患者もいる。「自分で治療の情報を持っていれば気兼ねなく他の医師に相談できる。医師側もカルテコの情報を見ればセカンドオピニオンに対応しやすい」と神野理事長は説明する。

 同病院で健康診断を受けた若い世代はカルテコに登録する割合が高いという。神野理事長は「今後、個人が病院の外で自分の情報を利用して健康を維持する時代がくる。病院が患者や健康な人たちの生活により深く関わるようになる」とみる。

 恵寿総合病院が将来的に目指すのは、個人が自らの医療情報を健康維持のために活用することだ。主に生活習慣病を予防したり、悪化を防いだりするために利用する。「利用者が自身の検査値や医療画像を地域の薬局やフィットネス、整体院などに見せて、健康維持の目的で最適なサービスを受けるイメージだ」(神野理事長)。

 ただし医師以外のサービス事業者が診断や診療行為を行うと医師法に違反してしまう。企業は医療データを参考に留める形で健康サービスを構築する必要があるだろう。

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