日本の病院が顔認証やAIなどデジタル技術の活用に乗り出した。病気の患者を治療する「受け身」から、予防を支援する「攻め」への転換を狙う。命に関わるプラットフォーム作りでGAFA超えを目指す病院の挑戦を追う。

 高齢者が路上で倒れ、病院に救急搬送された。身元を示す情報は何もない。医者が患者の顔をタブレットで撮ると、患者の氏名や病歴、意思表示がたちどころに表示された――。

 こんなことが可能になりつつある。東京都八王子市を拠点とする北原病院グループは患者向けに、自身の顔画像などの生体情報や治療に対する意思、病歴などを事前に登録しておくシステム「デジタルリビングウィル」の提供を2019年7月から本格的に始めた。救急搬送時には顔や指静脈、指紋を組み合わせた生体認証で個人を特定し、これらの情報を瞬時に引き出せる。

図 意識不明で搬送された患者の治療を始めるまでのプロセス比較
顔認証で本人確認、搬送してすぐ治療へ
[画像のクリックで拡大表示]

 「一人暮らしの高齢者が意識を失って倒れても、受け入れてくれる病院を見つけるのは容易ではない。身元の特定に時間がかかるからだ。こうした状況をITで根本的に変えたかった」。同グループの中核である医療法人社団KNIの北原茂実理事長はシステムを開発した理由をこう語る。

 さらに同グループはシステムが扱う情報の対象を広げ、日常の生活に関するデータも扱い始めた。将来的に様々な業種と連携し、病院の役割を「治療」だけでなく「予防」や「日常生活への関与」まで拡大する狙いだ。

 スマートホスピタルの一例として、北原病院グループの取り組みを紹介しよう。

身元不明は治療遅延の原因

 病院は本人もしくは家族にリスクを説明してから手術などの治療を始めるのが通例だが、身元を証明する手掛かりがない場合や一人暮らしの場合は家族への連絡にも時間を要する。

 救急に際して病院が知りたい患者の情報は他にもある。これまでの病歴や治療歴だ。特に高齢者は既に通院していることが多く、定期的に薬を飲んでいたり、体に医療機器を装着したりしている可能性がある。薬や医療機器によっては同時に使えない組み合わせがあるため、病院は事前に把握してから治療を始めたい。カルテがあればすぐに確認できるが、不明であれば治療の前に検査をする必要がある。その分治療を始めるまでに時間がかかってしまう。こうしたことから、一人暮らしの高齢者を積極的に受け入れる病院は限られてしまうのが現状だった。

この先は有料会員の登録が必要です。今なら有料会員(月額プラン)が2020年1月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら