木造戸建て住宅のスケルトンリフォームのように、大規模な改修案件では、コストや工期のボリュームがそれなりに膨らむ。顧客の熱意や期待も、部分的な小規模リフォームに比べて高まるものだ。それだけに、リフォームを手掛けるプロへの視線はより厳しくなる。

 こうした状況で生じる顧客からのクレームは、総じて深刻なトラブルに発展しやすい。手直しや追加工事の要求などによってプロ側が過剰な“持ち出し”を強いられ、顧客との信頼関係にもひびが入ることもある。具体的な事例で、問題の所在を考えてみよう。

事例1
既存の床組みを生かしたらクレーム

 工務店の現場担当で営業も兼ねているAさんは、地元農家のBさんが住む古い自宅の大規模リフォームを担当することになった。古民家といっていいほどの築年数で、規模も大きい住宅だ。AさんはBさんと打ち合わせを重ねて、最終的に建物全体をスケルトンリフォームすることにした。1階では複数の居室をつないで大空間にするなど、既存の間取りを大幅に変更し、耐震・断熱性能の向上も伴う大改修だ。

 解体工事が始まって姿を見せた構造材は、Aさんが事前に見立てたとおり、水まわりなどの一部を除いて健全だった。構造材の交換や補強などが必要になると、コストや工期も増える。「最小限の補修で済む」とAさんは判断して、ほっとした。改修工事は約半年の工期を要し、秋口に終わった。Bさん宅は既存の面影を残しながら、内部は新たに導入した設備を含めて現代的な住居空間となり、引き渡し時はBさんももちろん喜んでいた。

(イラスト:勝田 登司夫)
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 引き渡し後、冬が近づいて朝晩を中心に冷え込む日が増えてきた頃、工務店のAさんに顧客Bさんからクレームの電話がかかってきた。「1階リビングの床が冷たくて、底冷えしてしょうがない」とBさんは怒っている。既存の建物は1階床下が無断熱だったので、確かに冬は寒かったはず。しかし改修によって、1階に床下断熱を施していた。「『底冷え』なんて、おかしいな…」とAさんはいぶかしく思いながら、Bさん宅を訪ねた。リビングに足を踏み入れてみると確かに、暖房しているのに足元が寒く感じ、床面の所々がとても冷たい。状況を調べていたAさんは、施工時のある場面をはっと思い出した。

 既存の床組みを解体していた際、床下地を剥がしてみると木部に腐食などはなかったが、根太の多くが曲がったり、ゆがんだりしていた。経年変化で生じた変形ではなく、古い建物の場合、建築当初からこうした不器量な材が使われていることは珍しくない。工務店のAさんは、材の状態を調べて構造的な問題はないことを確認したうえで、交換するか否か、少し迷った。

 改修時の床下断熱化では、根太間にボード系断熱材を施工する一般的な仕様を採用していた。根太自体の曲がりや歪みがきつい箇所は、断熱材との取り合いに隙間ができてしまう恐れがある。断熱層に欠損箇所があれば、当然ながら断熱効果は低下する。根太を交換するとなるとコストが増えるが、見積もりではその分を含めていなかった。「大規模リフォームで全体が高額な案件であり、まして工事の途中に増額を顧客に持ちかけるのは気が引ける」。そう思ったAさんは結局、根太を既存のまま使うことにして、断熱施工を手掛ける大工職に「できるだけ隙間が生じないように詰めてくれ」と頼んでいた。

 顧客Bさんのクレームを受けて、工務店のAさんが改めて床下に入って確認してみると、やはり断熱材と根太との取り合いに隙間が空いている箇所が複数あり、床面が特に冷たかった箇所の位置とおおむね一致していた。AさんがそれをBさんに告げると、Bさんは深くため息を漏らし、「すぐに直してほしい」とAさんに怖い顔で答えた。補修費の負担をどうするか、Aさんはとても憂鬱な気分になった。

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