「やってみなくちゃ、分からない」。どのような仕事でも、プロとしては顧客に伝えづらい言葉だ。住宅リフォームでは、既存建築の状態を正確に把握できない段階で、不具合の対処を含めた提案や一定の費用目安を顧客に示す必要が生じる。しかし工事の着手後に、既存建築が想像以上に傷んでいることが分かり、対策などのために実際の費用が当初提案を上回ってしまうケースもある。

 こうした不確実性は早い段階でしっかりと顧客に伝えないと、後でトラブルを招く。建築に詳しくない顧客なら、「後出しで当初より高い金額を請求された」と受け止めて、プロへの不信感を抱くからだ。具体的なクレーム事例をいくつか紹介する。

事例1
外壁剥がすと思ったより大ごとでクレーム

 「外壁が傷んでいるようなので見てくれないか」。工務店の社長Aさんは、顧客Bさんからこうした依頼を受けて、さっそく訪ねた。この戸建て住宅は築約35年で、Bさんによると外壁仕上げは直張りサイディング。過去に1度塗り替えているというが、表面の塗膜は劣化してチョーキング現象が生じていた。また一部では目地のシーリングに亀裂やサイディング材のずれも確認できた。

 「壁内への漏水の疑いが強く、サイディング材を留め付けている下地材も腐朽している恐れがある」。Aさんは、「外壁の塗り替えとシーリングの打ち替えは最低限必要だが、場合によっては、大がかりな改修が避けられないかもしれない」と考えた。しかし、最悪の状況を想定すると、当然ながら費用も膨らむ。「そこまで伝えると受注できないかもしれない」とAさんは、顧客Bさんへの提案を少しためらった。

(イラスト:勝田 登司夫)
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 結局、工務店のAさんは次のように顧客Bさんに伝えた。「外から見た様子では、外壁の塗り替えとサイディング目地の打ち替えはやった方がいいでしょう。その範囲なら工事費は100万円程度と思います。ただし、内側に隠れた躯体の状態が悪いと、追加工事が必要になる場合もあります」

 BさんはAさんの提案を受け入れ、ひとまず塗装とシーリング施工の内容で契約を結んだ。工事に先立って、Aさんがサイディングの一部を外してみると案の定、漏水で下地材や躯体は真っ黒で、腐食が進んでいた。それも、Aさんが想像していたより状態が悪く、しかも広範囲に及んでいた。

 Aさんは、下地材や躯体の改修を含めて、サイディング自体の広範囲の張り替えが必要と顧客Bさんに報告。当初の費用に200万円強の追加が生じると伝えた。するとBさんは激怒。「工事を始めてから高額の追加金額を吹っかけてくるなんてあり得ない。悪徳業者のやり方だ」とAさんを罵って、追加の費用負担を拒否した。結局、Aさんは外壁の塗り替えと目地の打ち直しだけ実施したが、後味の悪さは拭えなかった。「最初の金額の伝え方や工事の進め方がまずかった。『契約が取れないかもしれない』とためらわずに、最悪の可能性をもっとしっかりと伝えてから、Bさんに決断してもらうべきだった」と反省する。

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