関東から東北地方にかけて記録的な大雨をもたらし、各地の河川を氾濫させた台風19号。台風による豪雨は局地を襲う“ゲリラ”などではなく、広範囲に膨大な降雨をもたらす巨大災害となった。命を守る防災はどう在るべきか。「ここにいてはダメ」と明記した東京都江戸川区のハザードマップを監修した東京大学大学院情報学環の片田敏孝特任教授に、これからの豪雨災害に備えるマス・エバキュエーション(広域避難)について聞いた。

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東京大学大学院情報学環の片田敏孝特任教授。「ここにいてはダメ」と明記した江戸川区水害ハザードマップを監修するなど、水害などに対する減災に関して全国で広域避難の重要性を説いている(写真:日経 xTECH)
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台風19号では江東5区(江戸川区、足立区、葛飾区、墨田区、江東区)はどのように対応したのでしょうか。広域避難について分かってきた課題があれば教えてください。

 今回の台風で江東5区では発災前に域外への避難を促す広域避難勧告を発表しませんでした。結果的に大きな被害に見舞われず、広域避難は必要なかったことになります。しかし、この判断が「評価できる内容か」と聞かれれば、「適切であった」と首肯するのは難しい。今回の台風19号の被害は、広域避難の在り方を考えさせられました。

 江東5区が広域避難を出す基準の1つが台風の中心気圧です。広域避難勧告を出す判断は、72時間先の予報において中心気圧930hPa以下の台風の予報円が、東京地方を含む予測を発令した場合を目安とします。5区で検討を開始した時点では、台風19号は945hPa程度の予想でした。台風通過のルートは最悪なので警戒は怠りませんでしたが、広域避難勧告は出しませんでした。

 しかし、台風上陸の直近に雨量が想定を上回る可能性があると分かった。広域避難勧告の発令基準では、荒川流域での3⽇間の平均⾬量の積算値が400mmを超える可能性がある場合なのですが、台風19号が上陸する当日の朝になって500mmを超える予想になると分かったのです。

台風19号が首都圏を通過した翌日の10月13日に撮影した荒川の様子(写真:日経アーキテクチュア)
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 台風が迫る中、鉄道各社は計画運休を発表しました。上陸直前の段階で広域避難勧告を出しても避難は間に合わず、大混乱が起こってしまいます。そこで各区でできる対策にとどめ、経過を見守るしかありませんでした。私は江戸川区などと連絡を取りながら、改めて広域避難の難しさを感じました。日本を襲う豪雨災害はこの先より激甚化するでしょう。今回の台風19号は私たち国民の一人ひとりに、避難に対する自主的な努力をより一層促すきっかけになったのではないでしょうか。

防災に対する自主努力とは具体的にどのような取り組みを指すのでしょうか。

 「防災計画」には想定された被災のシナリオがあります。しかし、昨今の災害はシナリオに描き切れません。あらゆる災害が同時多発で発生し、広い範囲が被災地となる巨大災害になりやすい。巨大災害は行政や企業、研究機関でさえ被災状況や復旧見通しを把握できない。専門家が状況に対して的確な判断を下すのが難しくなっているのです。その一方で、国民は確定した情報を求めています。そこに巨大災害に対する広域避難の難しさがあると感じました。

 行政が主導する避難の体系は限界にきています。では、私たちはどのように備えるべきか。防災治水を根源的に見直す必要はありますが、ハード面の対応には時間がかかり、毎年上陸する台風に間に合いません。台風19号は「今年だけ特別」ではないのです。そこで避難行動などソフト面を変えるべきです。まずは防災に対する意識から。国民は行政のサービスに頼り切るのではなく、行政をサポートとして活用する。場合によっては率先して逃げることが重要になるのです。国民が自ら避難するか否かを判断する時代になってきたと考えています。

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