2019年10月9日、ノーベル化学賞が旭化成の吉野彰氏に授与されることが発表された。電池記者を長くやっていた筆者は、ようやくこの日を迎えたことへの安堵と、原理構造が興味深いリチウム(Li)イオン2次電池の真価がついに理解を得たことに喜びを感じている。

 Liイオン2次電池の歴史や開発の経緯については、ぜひ日経 xTECHの記事「 Liイオン2次電池を作ったのは誰か」を一読いただきたい。ただ、ひと言申し上げるとすれば、吉野氏の功績はリチウム酸化物を正極に、リチウムの入っていない炭素材料を負極に用いた電池構成を世に問うたことにあると考える。

 これにより、これまで正負極で化学反応をさせるという電池の概念は大きく覆り、イオンが正極と負極の間を行き来できれば、高容量な電池を実現できると世界中の研究者に証明した形となった。この成功によって、今も次世代のLiイオン2次電池の材料系の開発競争が世界各国で実施されているのに加えて、ナトリウム(Na)イオン電池など異なるイオンを用いた電池の研究開発につながっている。

日本の若者を応援したくなるじゃない

ノーベル化学賞を受けた吉野彰氏。(写真:『日経エレクトロニクス』2007年2月26日号の特集「燃えない電池」から)

 吉野氏に初めてお会いしたのは、2000年初頭だった。ノートPCや携帯電話機向けにLiイオン2次電池市場が急拡大し、既に業界の重鎮となられていた。筆者は当時、高容量化と小型化一辺倒だったLiイオン2次電池が今後、自動車の電動化や大型蓄電システムに貢献するとみて、安全性や耐久性の面から研究開発の方向性が変わるのではないかと取材を始めていた。

 恐れを知らない筆者は国内外の学会やシンポジウム、展示会で吉野氏に会うたびに声をかけさせていただいた。20歳以上も若い記者が相手でも分け隔てなく、懇切丁寧に電池材料の特性や今後の方向性を教えていただいたことに今もって感謝に堪えない。

 こうした分け隔てのない人柄と絶えず若者に気にかけてくれるエピソードがある。海外シンポジウムでお会いした時のことだ。「大手企業はサンプルをくれない」と新興の電池ベンチャーが品質の高いセパレーターを入手できず、電池評価に困っているとの立ち話をしたところ、吉野氏はその場ですぐに展示ブースを構えていた旭化成のセパレーター担当者を呼んで「至急、サンプルを送ってあげなさい」と指示したのである。

 その担当者には「将来、大切な顧客になるかもしれないのに、どうしてすぐ対応しないのか」と諭していたのが印象的だった。さらに、筆者が「大きな企業なのに、どうしてそこまでするのか」と問うと、「あのベンチャーには日本の若い技術者がいたよね。異国の地にわたって頑張っている若者を応援したくなるじゃない」と打ち明けてくれた。そういう人柄の方である。

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